東京大学と神奈川県立産業技術総合研究所の研究チームが蚊の触覚にあり、人のにおいを感知する「嗅覚受容体」を組み込んで作ったセンサーで、人の呼気からがんの進行度を示す微量のにおいを検出することに成功したと東京大学生産技術研究所が発表。米科学誌に2021年1月13日に掲載された。
<目次>
1 高精度で検出する仕組みと精度
2 10億分の1レベルのにおいに反応
3 多様な応用が可能
研究チームは既に2016年には人の汗のにおいを感じる蚊の嗅覚受容体を用いて、においに反応して動くロボットを開発していた。2021年1月,センサーの感度と精度を向上させ、10億分の1レベルのにおいにも反応するよう工夫した。バイオハイブリッド型匂いセンサーで12×17×5cmサイズと小さく「これまで1000万円程度の価格で売られている大型装置でも検出が難しかった低濃度の匂いを高精度で検知できる」という。
昆虫の嗅覚受容体は、特定の匂い物質(匂い分子)と結合するとイオンを透過する孔を開ける性質を持つ。この性質を人工的に形成する人工細胞膜形成法で確立した。この孔が開くと、細胞膜の内側と外側のイオン濃度の差により、微小なイオンの流れが発生。このイオンの流れを電流として計測することで、特定の匂い物質を検知するセンサーとして応用した。さらに精度を高めるため、従来1つだった検出部を複数に増やし、マイクロ流路で接続して並列化。これにより感度を上げることに成功した。
このセンサーを用いて肝臓がんの進行度などを示す腫瘍マーカーと考えられている「オクテノール」を含むガスを測定。その結果、0.5ppb(10億分の5単位)の微量なにおいを検出することに成功した。
また、人工細胞膜の合成方法を変えたところ、1ppm(100万の1単位)以下のオクテノールガスを10分以内に90%以上の確度で検出できるようになったという。
今後、約100種類ある蚊の嗅覚受容体を調べるとともに、別の異なる昆虫の受容体を組み合わせることで、さまざまなにおいを高精度で検出できるセンサーを開発する予定。実用化には10年程度かかる見通しだが、医療/ヘルスケア分野での応用の他、麻薬・爆発物の検知や残留農薬の検出などをスピーディーに検査することができ、応用の範囲は限りなく広い。
東京大学生産技術研究所
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