e-fuel(合成燃料)は自動車使用の現実解 EUが条件付きでエンジン車使用を認めた

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EUの欧州委員会とドイツ政府は3月25日、2035年以降に電気自動車(EV)や燃料電池車以外のガソリン車等の内燃機関車の新車販売を禁止する法案の調整で、CO2と水の電気分解で得られる水素で製造する「e-fuel(合成燃料)」を使う内燃機関車も条件付きで新車販売を認めることで合意した。

これにより28日に開くEUエネルギー理事会で正式に合意する見通しとなり、今後日本のHV技術が再評価され、グローバルな自動車業界のEV戦略にも影響を及ぼすと考えられる。

EUのエネルギー危機によりシフトチェンジか

EUはこれまで2035年以降はエンジン車の販売を認めない方針だったが、ウクライナ侵攻を契機にドイツを中心としたエネルギー危機から2035年以降も内燃機関を使用した新車販売を認める方針に変更した。
走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから「環境に優しいクルマ」として欧州をはじめ各国が強力に推し進めてきた「EVシフト」政策は頓挫する可能性があり、EVシフトを前提とした研究開発や設備への投資計画を打ち出してきた企業は、計画を再考する必要に迫られている。

欧州委員会のティメルマンス副委員長は「(ドイツとの合意を受けて)自動車のCO2規制を早急に取りまとめる」とコメントし、法案で「e-fuel燃料」車を認める方針を示した。

e-fuel(イーフューエル:合成燃料)とは

e-fuel燃料とは、工場や発電所から排出されるCO2と、再生可能エネルギー(太陽光や風力発電による電力)による水の電解(electric)から得られたH2を用いた合成燃料のことで、ガソリンや軽油などの代わりとして期待されている脱炭素燃料である。

e-fuelは合成燃料の一種だが、原料となるCO2は、現状では発電所や工場などから排出されたものを利用して作成するため、カーボンニュートラル(CO2の排出量と吸収量を差し引いて全体としての排出量はゼロ)である「脱炭素燃料」と言われている。

問題は製造コスト

アメリカ化学界(American Chemical Society)の機関誌『Energy & Fuels(エナジー&フューエルス)』に2016年に掲載された研究報告では、この合成燃料の最終コストは1ガロン(約3.79リットル)あたり3.8ドル~9.2ドルになるものを推定されていますが、これは2010年代の米ドルレートを前提とした数字です。現在のインフレ率を考慮に加えれば、1ガロンあたり5.16ドル~12.50ドルという額となる。


日本でも官民を挙げて研究を行っており、大手の自動車会社ではポルシェやトヨタが研究を行っている。e-fuelを含む合成燃料のコストは水素が大部分を占めており、合成燃料研究会(資源エネルギー庁)の「中間取りまとめ」(2021年4月)によると、合成燃料のコストは2020年に約700円/Lと試算し、そのうち水素が634円/L。実用化するには水素の製造コストを現在の1/3以上のコストダウンが必要であろう。

既存設備が生かされるe-fuel

水素や天然ガスを内燃機関に使うには多くのハードルがある。水素には金属を脆くさせる性質があり、収納容器や材質に特殊な加工が必要となる。水素吸蔵合金に水素を蓄える工夫も行っているが、重量あたりのエネルギー密度が低くなる。天然ガスはタクシーなどでも使われているが、体積当たりのエネルギー密度が小さいため、アクセルを踏み込んでも加速が効きにくく、ガソリンに比べて燃料補給をたびたび行わなければならない。

EVも体積や重量あたりのエネルギー密度が小さいため、航続距離を伸ばそうとすればするほど多くの電池を積み込まなければならず、自ずと車重が重くなり室内も狭くなる。
e-fuelはガソリンやバイオ燃料と遜色ないエネルギー密度を有しており、化石燃料の施設をそのまま使えるため、コストが抑えることができ、市場への導入もスムーズに行えるメリットがある。
参考
【資源エネルギー庁】エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html
【経済産業省】合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会の設置について
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/e_fuel/pdf/001_03_00.pdf
EU欧州委員会とドイツ政府。2035年以降も「e燃料」使用の内燃機関車の新車販売承認で合意。EUの電気自動車(EV)シフト戦略を修正へ。自動車業界のグローバル戦略にも影響か(RIEF)
https://rief-jp.org/ct5/133871
EVシフト幻想から覚めた欧州、現実解は合成燃料と一体の「ハイブリッドシフト」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/07858/
噂のe-fuel(イーフューエル/合成燃料)を検証。その将来性は? 課題は?
https://www.esquire.com/jp/car/car-feature/a42337512/e-fuels-for-real/
e-fuel(合成燃料)とは何か? トヨタも取り組む「CO2を排出しても脱炭素」の作り方
https://www.sbbit.jp/article/cont1/95962

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