光合成を行わず作物を生産する研究が進行中 少ないスペースで食料生産を可能にする研究

テクノロジー

6月23日付けの学術誌「Nature Food」に、光合成を行わず植物を育てることで、より効率よく食料を生産する論文が掲載された。酢酸塩という化合物を栄養として、暗闇のなかで藻類や酵母、菌類を育てる一種の「人工光合成」で、従来の農業よりも少ない物理的スペースとエネルギーで食料を生産する新しい方法の扉を開くだろうと期待されている。

様々なものを栄養源として生きる生物

光が届かない深海の海の中にある海底の熱水噴出孔から出る硫化水素を利用して生きる深海生物や、深度300メートルの花崗岩からなる地中から採取した地下水に、マグマ由来のメタンをエネルギー源にする微生物から成る生態系が存在することが明らかとなっている。



我々の身近に存在する松茸のような菌類も、光合成しない菌が多数いる。
このことから光に依存せず生きることができる生物は地球上には多数いると考えられている。

キーワードは「酢酸塩」

地上に住む植物にとって光合成は必要不可欠な過程だが、光エネルギーの変換効率は高くない。植物に降り注ぐ太陽光のうち、実際に有機物の生成に利用されるのはわずか1%程度といわれている。そのため人間が宇宙で暮らすようになると少ない資源やスペースで、もっと効率的な食料を生産することが不可欠になる。その時問題となるのが、光合成の効率の悪さだ。
そこで考え出されたのが、人工光合成と呼ばれる人工的なプロセスで一般的な食用作物の栽培する試みだ。



このシステムの中心は太陽電池の電力を利用した電解槽での電気分解で、二酸化炭素や水などから酸素や酢酸塩(炭素ベースの単純な化合物)を生成し、それをクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)という緑藻や、キノコを作る菌類、栄養酵母に与える。その結果、太陽光がない暗闇の中でも酢酸塩を取り込んで成長することが確認できたという。
この方法は通常の光合成と比較して緑藻では約4倍、酵母では約18倍もエネルギー効率が高かった。
次にレタス、イネ、キャノーラ(アブラナ)、トマトなどを明るいところで栽培し、酢酸塩を補給したところ、植物が酢酸塩を組織に取り込むことを確認できた。

酢酸塩がどのように取り込まれ代謝に利用されているかを調べるために、炭素13(炭素の重い同位体)を標識として追跡したところ、炭素13がアミノ酸や糖に含まれていることがわかり、植物が酢酸塩をさまざまな代謝過程に利用していることが示唆されたという。
現在の研究では植物が太陽光のない環境で酢酸塩のみで成長させることはできないが、遺伝子操作と品種改良により酢酸塩に耐性のある植物を作り出すことで、暗闇や低光量の環境でもしっかり育つ植物を作り出せる可能性を示している。



今回の研究成果について、米ブレイクスルー研究所の食品・農業アナリストであるエマ・コバク氏は「屋内での植物生産に酢酸塩を養分として利用できるようにするための第一歩」であると言う。それが可能になれば、屋内農場の光量を下げることができ、農場運営に必要なエネルギーを削減できるかもしれない。しかしコバク氏は、光量の少ない条件下でも酢酸塩を使って植物がしっかり育つようにするためには「飛躍的な進歩が必要でしょう」とも語っている。

宇宙旅行するために必要な技術

この研究は、有人で他の惑星探査をするために必要な基礎技術と考えられている。どんなに大きな宇宙船でも乗せられる食料や水には限りがあるからだ。
NASAは長期宇宙ミッションで宇宙飛行士に食事を提供するための革新的なアイデアを提案したグループに賞金を授与するコンテスト『深宇宙食料チャレンジ(Deep Space Food Challenge)』を開催している。

「人工光合成」の研究チームも人工光合成のアイデアでこのコンテストに応募し、2021年秋に行われた米国の18チームの1つとして一次予選を通過している。二次予選では、実際に食料を生産するプロトタイプを作ることが要求され現在、試行錯誤中とのことである。受賞者は来年発表される予定となっている。



この方法が最適とはいえないかもしれないが、光の届かない深宇宙を旅するためには食料問題は解決しなければならない大きな問題であろう。さらに食糧問題に悩む地上での生産効率向上にも役立てられるのではないかと考える。
参考
光合成に頼らず作物を生産できるか、第一歩となる研究に成功
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/natgeo/world/natgeo-0000AziM?page=1
光合成する微生物を地下深くで発見、定説覆す
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/100300428/
【東京大学】光合成由来のエネルギー源に依存しない地底生態系の解明に成功
https://www.jaea.go.jp/02/press2017/p17090901/

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