今季カブスに入団した鈴木誠也が“メジャーの洗礼”を受けている。米データ分析会社の調査によると、ストライクゾーンを通過していない球がストライクと判定されたケースがメジャー最多の24度に及ぶという。2008~2018年までの11シーズン分で投げられた約400万球を分析した結果では、過去11シーズンのピッチングに対する誤審率は12.78%に登り、2ストライク時に限れば誤審率は20%を超える。その多くが年配のベテラン審判であることも分かっている。
そこでMLB機構が今季からマイナー3Aで自動ストライク判定システム(ABS)、通称「ロボット審判」を導入する予定になっているという。
MLBにとっては日本から来た鈴木誠也は新参者の一人に過ぎない。それは日本代表4番打者であっても変わらないし、活躍している大谷翔平さえも“メジャーの洗礼”を受けている。
4月は21試合に出場して打率.279(68打数19安打)、4本塁打、14打点、1盗塁、出塁率.405、長打率.529、OPS.934をマークし、ナショナル・リーグの月間最優秀新人に選出された。
5月に入り41試合出場までで打率.245(139打数34安打)、4本塁打、21打点、49三振と絶不調。全くホームランが打てなくなり、打点も7打点しかあげられていない。
その要因として、アメリカでスポーツデータを提供する「コーディファイ・ベースボール」は公式ツイッターに「内外角に外れ、ストライクゾーンに全くかからない球がストライクと判定されるケース。今季こうした判定に最も苦しんでいるメジャーリーガーがセイヤ・スズキ。24度も!」と記し、特集動画を投稿した。画像に示されたストライクゾーンの外側を通る球を鈴木は見送っているが、球審はストライクと判定している。
Too inside or too outside to catch any of the strike zone but still called a strike. No major league hitter has suffered more of these calls this season than Seiya Suzuki. Two dozen! pic.twitter.com/jKOIlLjUMa
— Codify (@CodifyBaseball) May 27, 2022
2019年4月23日にMLBの公式ページが公開している統計データベース「Baseball Savant」を用いて、2008~2018年までの11シーズン分で投げられた約400万球を分析し、審判による誤審について分析した研究論文が公開された。
MLB Umpires Missed 34,294 Pitch Calls in 2018. Time for Robo-umps? | BU Today | Boston University
11シーズン・400万球の投球データを分析したのは、ボストン大学のマーク・トーマス・ウィリアムズ氏と、Boston University Questrom School of Businessでデータマイニングを専攻する大学院生による研究チーム。分析では400万球分の投球データから、どの投球がストライクと判定され、どの投球がボールと判定されたかを分析し、審判の判定の正確さを審判の年齢や経験を考慮に入れてランク付けした。
MLBに所属する30チームのホームスタジアムには、ピッチャーの手から投げられたボールがホームベースを通過する様子を追跡する「Statcast(スタットキャスト)」というシステムが設置されている。これは選手の動きやボールの動きを高速・高精度に分析するためのシステムで、自軍の選手のパフォーマンスを評価に使われており、その精度は1度のピッチングの中で50回もボールの位置を追跡可能であり、1インチ(約2.54cm)の誤差しかない。
元々審判の誤差を測定するものではないが、審判の判定の正誤にフォーカスしてデータ分析に応用したという。収集したデータと標準的なストライクゾーンマップに重ね合わせることで、審判の誤審率をランク付けをおこなった。
分析の結果、審判の誤審率が非常に高く11シーズン平均で12.78%であることが明らかになった。2008年ではなんと5万9988球(16.36%)が誤審だったが2018年シーズンには、3万4246球(9.21%)で誤った判定が下されていた。
これは1試合平均で14球、1イニング当たり1.6球が誤審であるという。加えて、2018年シーズンに行われた試合のうち、55試合が誤審によりゲームセットを迎えている。誤審の判定は年々減少しているというがまだまだ多い。
特に誤審が起こりやすいのが、2ストライクのタイミングで、この時はすべての審判で誤審率が上昇している。2ストライク時の誤審率は年々低下しているものの、11シーズン平均で29.19%。なお、これはノーストライクもしくは1ストライク時の誤審率の約2倍となっている。
またストライクゾーン低めの誤審率が低下しており、2008年シーズンにはストライクゾーン高めよりも明らかに誤審率が高く40%以上あったものが、2018年シーズンには10%台にまで低下した。
さらにイニング別では1・2回および9回に誤審率が高くなりがちであることも浮かび上がっている。
MLBの審判の平均年齢は46歳で、経験年数は平均13年。分析した11シーズン分のデータの中で最も誤審率が低かったのは、3年未満の経験かない33歳の新米審判だった。このデータから、「プロ野球選手と同じように、審判にも年齢的なピークが存在するようだ」とサイエンス関連メディアのPhys.orgは記しているという。
1位 マーク・ウェグナー(47歳)経験年数19年、342/4700球(7.28%)
2位 ジョン・リブカ(32歳)経験年数1.5年、150/2046球(7.33%)
3位 ウィル・リトル(35歳)経験年数4.5年、331/4322球(7.66%)
1位 テッド・バレット(54歳)経験年数20年、495/4291球(11.54%)
2位 ジョー・ウェスト(67歳)経験年数40年、512/4480球(11.43%)
3位 ロブ・ドレイク(50歳)経験年数10年、285/2496球(11.42%)
ベテラン審判員の誤審の多さやポスト・シーズンの球審に若い審判の登用が少ないなど多くの問題を抱え、なかなか改善が見られない。ここに来て少しずつではあるが改善の機材も見えている。現地時間2022年1月20日、MLB機構が今季からマイナー3Aで自動ストライク判定システム(ABS)、通称「ロボット審判」を導入する予定だと『AP通信電子版』が報じた。
映像化が進んだ現代では1球1球の判定がテレビ映像から一目で分かるようになっており、「誤審」として審判が糾弾されることが増えている。その中で2019年7月から、MLB機構は事業提携を行なっている独立リーグのアトランティック・リーグではロボット審判の運用を開始しており、昨シーズンは1Aの9球場のうち8つのスタジアムでも導入されていた。
『AP通信電子版』では「ロボット審判はメジャーリーグのほんの一歩手前まえで来ている」とも伝えているが、実際は紆余曲折が想定される。独立リーグなどでの運用では、カーブなどの変化球の判定に選手から不満の声が上がっており、判定には改善の余地が残されているという。
しかし審判の誤審が今後とも減少しないようであれば、「ロボット審判」の時代が想定よりも早く来るかもしれない。
参考
【Full-Count】鈴木誠也
https://full-count.jp/category/mlb/seiya-suzuki/
“誤審疑惑”がMLB最多の24度… 鈴木誠也が浴びるメジャーの洗礼は「馬鹿げている」
https://full-count.jp/2022/05/28/post1227715/
メジャーリーグ11シーズン・400万球分の投球データを分析して審判がどれだけ正しくジャッジできているのかを分析した結果
https://gigazine.net/news/20190423-analysis-how-many-mistakes-umpires/
MLBの誤審、2018年は驚愕の3万回超え 研究機関が発表
https://www.sportingnews.com/jp/mlb/news/mlb%E3%81%AE%E8%AA%A4%E5%AF%A92018%E5%B9%B4%E3%81%AF%E9%A9%9A%E6%84%95%E3%81%AE3%E4%B8%87%E5%9B%9E%E8%B6%85%E3%81%88%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%A9%9F%E9%96%A2%E3%81%8C%E7%99%BA%E8%A1%A8/7if1ght6inow1hdxejxwa21hm
「メジャーの一歩手前まで」3Aで今季からロボット審判導入へ。一方、独立リーグでは廃止に
https://thedigestweb.com/baseball/detail/id=51601
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