温暖化で動植物の絶滅が進んでいる。最近は台風の巨大化や頻発する雷・竜巻、冬に雪が降らない地域の拡大などの現象が強くなり、これまで当たり前にあった自然が蝕まれ衰退している。すでに私たちは「温暖化」というパンドラの箱をひっくり返しているのかも知れない。
この画像は国際自然保護連合(IUCN)が2020年に「絶滅(EX)」と判断した動植物の一覧である。(2021年1月6日作成)(c)VALENTINA BRESCHI, SABRINA BLANCHARD, MANEL MENGUELTI / AFP
50年以上前には九州に行かないと捕まえられなかったナガサキアゲハ、ムラサキツバメ、アカボシゴマダラなどの蝶が、今では当たり前のように栃木県宇都宮市内で確認されているという。
チョウの生態に詳しい山梨県富士山科学研究所の北原正彦(きたはらまさひこ)専門員は「特にナガサキアゲハの分布域の北方拡大は、温暖化が主因と言える」と解説。研究では、2010年時点での生息北限は栃木県南部であったが、現在では県央部で冬を越えているという。
このような現象は蝶に限ったことではない。南方系のヌマガエルも今では栃木県で越冬している。このカエルは暑さには強いが、気温1度だと2週間程度で死に、氷点下1度ではほとんど死滅するという。
さらに深刻なのはシダ類や竹(モウソウチク)の進出だ。特に温暖化は竹(モウソウチク)の生育に適した環境となり、里山の管理などに悪影響を与えるリスクがあるとの予測がでている。
東日本の面積に占める竹(モウソウチク)の生育に適した地域の割合は、1980~2000年は35%と予測されたが、今後、特に温暖化対策が取られずに平均気温が、温暖化の起点とされる産業革命前より4度上昇した場合は77~83%まで広がるといわれる。竹(モウソウチク)の生育に適した地域の北限は現在は北海道の函館周辺だが、温暖化が進めば道北端の稚内に達するという。
竹林が拡大すれば、コナラやミズナラなど他の樹木が圧迫され、里山の景観や植物の多様性が損なわれる。さらに竹林はイノシシなどのエサ場や隠れ場所になりやすく、竹林の拡大が獣害を増やすリスクもあるという。
地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に準じて温暖化を1.5度以下に抑えれば、拡大は面積の46~48%で食い止められると予測。温暖化対策に加え、「タケノコを新たに植えない」「竹林を放置しない」などといった対策を住民と行政が一体となって進めることが重要だ。
日本に在来分布する維管束植物と脊椎動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類)の種について、1989年以前の分布データと、1990年以後の分布の北限緯度、中央緯度、南限の変化を見ると興味深い。
2010年代の全国の平均気温は、1980年代と比べて1.08度(緯度約120kmの気温差に相当)も上昇し、東日本の太平洋側では2度以上も上昇している(緯度にして約230kmの気温差に相当)。そのような温暖化にも関わらず、哺乳類、爬虫類、両生類、淡水魚類の分布域は、ほぼ変化しておらず、北限は平均で数十mから3kmほどの変化であった。
水草や川辺に生育する植物は北上が観測された。特に変化が大きかったのが鳥類で、多くの種が分布を北上させているという。
では飛翔性無い生物はどうなるのか?飛翔性の無い生物が琉球諸島から本州へ、あるいは本州から北海道に、海峡を越えて分布域をシフトすることは困難であり、日本のような島国の場合、地域的な固有種(局在分布する希少種)の多くは分散制限のため、温暖化の進行によりいま生息している動植物が絶滅する可能性があるといわれている。
いまは当たり前に存在していると思われている食べ物や飲み物も、気候変動への耐性を高めなければ希少なものになってしまう恐れがあると専門家は警鐘を鳴らしている。
人類はより収穫量を増やしたりより美味しくするために果実や野菜の品種改良を続け、特定の生育条件に適合させてきた。品種改良によって収益性が上がった作物が、気温上昇や干ばつ、豪雨、新たな病害、昆虫の大発生などには弱くなっている。
国際ポテトセンター(International Potato Center)の予測では、気候変動によりジャガイモとサツマイモの収穫量は2060年までに32%減少する。コーヒー栽培に適した土地は2050年までに半減するという見通しもある。
国連食糧農業機関(FAO)によると、地球には約5万種類の食用植物が存在するが、そのうちのコメとトウモロコシと小麦の3種類が、世界の食料エネルギー摂取量の60%を占めているという。もしこの3種類の植物が栽培できなくなったら、数十億人は何を食べればいいのだろうか。
参考
コメもコーヒーも希少に? 温暖化から救うカギは野生の祖先種
https://news.yahoo.co.jp/articles/4594c134480629c0b8bf93ffcab398a3e7f0a8a7?page=2
「竹繁殖前線」破竹の北上 温暖化で拡大予測
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22381150Y7A011C1000000/
気候変動と生物多様性:温暖化で生物は北上しているのか?
https://note.com/thinknature/n/n9b1938fea376
<4>生物分布 南方系種、じわり北へ
https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/118606
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