化石資源依存から脱却する日本発の夢技術「人工光合成」

環境



2020.12.06

「明反応と暗反応」で「脱炭素と化学合成」の同時実現を目指す

植物の「光合成」は太陽光と大気中の二酸化炭素と水から、酸素と糖分を合成する。

「人工光合成」は半導体と触媒の力で、太陽光と大気中の二酸化炭素と水から、酸素と有用物質(水素やメタン、メタノールなど)を合成するものである。
この研究は「夢の新エネルギー」とも呼ばれ、各国で研究が進んでおり、日本は基礎研究の分野で世界のトップクラスの成果をあげ、実用化に向け更なる研究が行われている。


100%に近い量子収率で水を水素と酸素に分解

2020年5月29日に、NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は、信州大学、山口大学、東京大学、産業技術総合研究所と共同で、紫外光領域ながら世界で初めて100%に近い量子収率(光子の利用効率)で水を水素と酸素に分解する粉末状の半導体光触媒を開発した。
これまでに開発された光触媒で量子収率が100%に近い研究は報告されておらず、画期的な成果といえる。なおこの研究成果は、2020年5月27日(英国時間)に英国科学誌「Nature」オンライン速報版に掲載された。

触媒で直接水を分解するため、酸素と水素が効率的に取り出せ、従来の電気分解と比べて大幅なコストダウンが期待できる。
今後太陽光の水素への変換効率(Solar to Hydrogen Energy Conversion Efficiency:STH)を実用レベルとされる10%を目指すプロジェクト「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」に取り組んでおり、2021年をめどに実現させたいと考えている。
今後の課題として
1 光触媒による水分解時に応答する光の波長範囲を長波長側に広げること
2 各波長における量子収率を高めること

世界で初めて100%に近い量子収率(光子の利用効率)で水を水素と酸素に分解できている波長は350~360nmの紫外光領域。しかし地表に届く前に生物の生存に有害なエックス線は大気で、紫外線も成層圏のオゾン層で90%以上がカットされている。そのため地表近くに届く紫外光領域の波長はかなり低下しており、今のままでの実用化は難しく、粉末状の半導体光触媒の改良を進めているところである。

「人工光合成」で海水を分解し水素を取り出す

2020年10月9日に産業技術総合研究所が「人工光合成による海水分解の反応選択性を制御する触媒機構を解明」と発表し、実用化を目指して研究している。
日本の周りには無尽蔵の海水があります。産業技術総合研究所は「人工光合成」技術を使い、低コストで水素を製造する技術開発を進めている。
水を電気分解すると酸素と水素が取り出せるが、海水などの塩化物イオン(Cl-)を含む水を反応溶液として用いると、酸素と水素の発生とともに、次亜塩素酸(HClO)が生成される。この次亜塩素酸(HClO)は酸素よりも高付加価値の殺菌・消毒用の化成品として期待される一方で、システムの腐食劣化を促進するやっかいな物質だ。そこで産総研が取り組んだのは光電極をマンガンの酸化物でコーティングすることで次亜塩素酸(HClO)の発生を抑制し、効率的に水素を取り出す方法を考案した。
これも研究段階であり、光電極の改良と長期安定性の向上など、太陽光による水素製造の実用化を目指している。


「人工光合成」でギ酸(HCOOH)やメタノール(CH3OH)などの有機化合物に合成

植物は太陽光を使って、水を酸素と水素に分解する「明反応」と、生成された水素と大気中の二酸化炭素からデンプン・ブドウ糖などの糖質を合成する「暗反応」を行っている。「人工光合成」でも「明反応」だけでなく、大気中の二酸化炭素と水素を合成させ、植物の「暗反応」に相当する、ギ酸(HCOOH)やメタノール(CH3OH)などの有機化合物の合成も目指している。

どの研究でも太陽光では実用的な「人工光合成」が出来ていない理由は、触媒を効率的に働かせるためには紫外光しか利用できないことがネックとなっている。太陽光の「エネルギー変換効率」は0.1%程度にとどまるため、触媒材料・構造の開発を行い10%に引き上げる研究が進んでいる。

「人工光合成」の主な研究

・NEDO「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」が大気中の二酸化炭素と光触媒で生成した水素をCO2と合成し、石油化学製品の原料となるオレフィンの製造を研究中
【オレフィン】とは、エチレン・プロピレン・プタジエンなどの高分子化合物を総称。炭素と水素の化合物なので、熱却しても塩化水素ガスなどの有害なガスなどが発生しない。 代表的なものはPP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)などがある。

・パナソニックは、可視光も利用できるニオブ系光触媒の開発を進め、工場などから排出される二酸化炭素を吸収し、エタノールの製造を研究中
・豊田中央研究所は、光触媒を使わず、水に溶かした二酸化炭素を直接還元する方法で「ギ酸」の合成に成功しが、太陽光エネルギー変換効率は0.04%だったため、高効率化を目指して材料と構造を全面的に見直した素子を開発中
・東芝は独自の分子触媒を用い、二酸化炭素からPETボトルやポリエステル繊維の原料となるエチレングリコールをワンステップで製造できる「多電子還元」を開発し、2020年代後半の実用化を目標に、汎用性の高い工業原料を高効率で製造する技術の開発中  ほか

水素を製造する「明反応」だけでなく、光触媒を使用した「暗反応」を行うことで、化石燃料からの脱却と「脱カーボン」を果たし、エネルギーを海外に頼らない日が来ることを願っています。

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