2021年11月19日に、分子科学研究所の伊沢誠一郎助教、平本昌宏教授らの研究グループが、有機半導体薄膜の界面で目に見えない近赤外光からエネルギーの高い黄色の可視光へ変換する新技術を発明したことを報道機関へ発表した。論文は「Nature Photonics」に掲載された。
この発明により固体中の変換効率が約100倍に向上し、太陽光発電や各種センサー、LED照明の効率が向上し、様々な機器に利用が期待できる。
太陽が放射する電磁波は、波長2ナノメートルのX線から波長10メートルの電波までと広い。そのうちヒトの目で見える波長のもの(光)のことを「可視光線」と呼んでいる。JIS Z8120の定義によれば、可視光線に相当する電磁波の波長は下界はおおよそ360-400 nm、上界はおおよそ760-830 nmであり、可視光線より波長が短くなっても長くなっても、ヒトの目には見ることができない。可視光線より波長の短いものが紫外線、波長の長いものを赤外線と呼ぶ。
この新技術は、
・従来に比べ約100倍高い変換効率を実現
・軽くて曲がる有機薄膜上での光変換が可能
・太陽電池や光触媒の効率向上や、近赤外光センサや生体内光遺伝子治療などへの応用が期待できる。
SDGsや環境保護に世界中が取り組む中、太陽光発電には再生可能エネルギー利用技術として大きな期待が寄せられている。普及を加速させるには、さらなる変換効率の向上などが求められてきた。しかしこれまでのシリコン系パネル技術ではすでに変換効率の限界に近づいており、革新的な技術開発が不可欠となっていた。
今回の研究では、自然に優しい有機軽元素のみで構成され、従来に比べ約100倍高い変換効率を実現している。さらに軽くて曲がる有機薄膜上での光変換できるため、研究が進めば、今話題になっている「ペロブスカイト」太陽電池にも応用できる。
これまで熱として廃棄されてきた近赤外線などの長波長の光を、エネルギーの高い短波長の光に変換する技術「フォトンアップコンバージョン(UC)」により効率を向上させた。
S1:励起子 T1:三重項励起子 (分子科研の資料を基に作成)
この新原理のUCの変換効率を測定すると、近赤外光から黄色の可視光への光変換効率(外部量子収率)が2.3%であり、従来の0・02%の約100倍高い。
この要因は、吸収効率の高い有機半導体の薄膜を用いることで、入射した光の大部分を界面に捕集し、三重項励起子に変換できたためと判明した。
この新原理を応用することで、従来はレーザー光などの高強度の励起光が必要な場面でも市販のLEDの光でも高効率なUCが可能となり省エネルギーかができる。また有機ELや有機太陽電池と同様に、有機半導体材料を「塗布」によって製膜したフレキシブル基板上での形成ができるため低コストで製造ができるのも強みだ。
この技術はシンギュラリティ (singularity) となる可能性を秘めている。更なる高効率化を目指してもらいたい。
参考
目に見えない近赤外光を高効率に可視光に変換する新技術を発明(平本グループ)
https://www.ims.ac.jp/news/2021/11/211119.html
太陽電池エネルギー変換効率の波長依存性
https://www.env.tohtech.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2017/02/2013-1-23.pdf
太陽電池が利用できる光と利用できない光の違い
http://www.solartech.jp/knowledge/available-light.html
wiki 太陽電池
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E9%9B%BB%E6%B1%A0
有機半導体の塗布膜で「世界初」の光の変換に成功、太陽電池の効率向上へ
https://news.yahoo.co.jp/articles/2bfb5e3acfe1b459e8006aeafd4acf4d7c159b6c
wiki 可視光線
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%AF%E8%A6%96%E5%85%89%E7%B7%9A
世界一のモジュール変換効率40%超を目指す、太陽電池開発中
https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201111sharp/index.html
太陽電池が反応する波長の光に変換、1000℃の熱で発電効率40%以上に
https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1701/05/news014.html
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