胎盤細胞作成や人工子宮、AIナニー(乳母)などの新たな生命の作成や誕生を可能にする技術が進んでいる

テクノロジー

技術革新は日々進み、妊娠に不可欠な胎盤を構成する主な3種類の細胞作成に成功し、生命を再構築できる技術を獲得した。現在の国際法では、14日を過ぎたヒトの胚の実験研究は禁止されているが、別の動物実験ではバイオバッグ(Biobag)の中に人工羊水と羊の胎児を4週間体外培養した後で、自発呼吸できる子羊にして「出産」することができている。
さらに中国では人工子宮の環境で胎児に成長する胚を監視し、世話をする人工知能システム「AIナニー(乳母)」を開発したことを発表している。この技術を使えば、女性の胎内で育てる必要がなくなる。

幹細胞だけを使った生命誕生に

マウスの受精卵が細胞分裂してできた「胚盤胞」から新たな幹細胞「PrES(プレス)細胞」(原始内胚葉(ないはいよう)幹細胞)を作製したと、理化学研究所と千葉大のチームが2月3日付の米科学誌サイエンス電子版に発表した。



「胚盤胞」は、

① 主に体になる細胞
② 胎盤になる細胞
③ 胎盤ができるまでの栄養源となる卵黄のうになる細胞

の3種類の細胞からなり、このうち2種類から既にES細胞(胚性幹細胞)とTS細胞(胎盤幹細胞)の二つの幹細胞が作られている。
三つ目のPrES細胞がそろったことで、幹細胞だけを使った生命誕生につながる可能性がある。詳しい内容は理化学研究所のホームページで確認してほしい。
【理化学研究所】
原始内胚葉幹細胞の樹立に成功-試験管内胚再構成の実現への第一歩-
https://www.riken.jp/press/2022/20220204_1/index.html
理研の大日向(おおひなた)康秀客員研究員らのチームは、マウスの受精卵を胚盤胞に成長させ、特殊な条件下で培養することで、卵黄のうになる能力を持つPrES細胞を作製した。これを、薬剤で卵黄のうになる細胞をなくした胚盤胞に注入したところ、育たないはずの胚盤胞が成長を続け、正常な子マウスが誕生したという。



さらに、三つの幹細胞を混ぜ合わせた塊を雌マウスの子宮に移植し、約1週間観察。その結果、2~3割の確率で着床し、着床後すぐの通常の胚に似た構造まで変化したが、正常な胚にはならず、子マウスは生まれなかった。
大日向研究員は「数十個の細胞からなる胚盤胞が生命の起源として機能する仕組みの解明に役立つかもしれない」と話す。マウスとヒトでは受精卵の発育の仕組みが大きく違うため、この方法が生かされるかをブタの細胞で研究を始めている。

ips細胞でも胎盤構成細胞の作製に成功している

2021年4月8日に胎盤を構成する主な3種類の細胞を作ることに成功したと、京都大ips細胞研究所の高島康弘講師(再生医学)らのチームが発表している。この論文が同日に米科学誌セル・ステム・セルに掲載された。
胎盤は、胎児が成長するのに必要な酸素や栄養を母親の血液から吸収する役割を担い、人の受精卵が子宮に着床した後、受精卵の外側にある細胞が胎盤になる。ips細胞をより人の受精卵に近づける処理を施すなどした上で、胎盤のもとになる細胞に変化させた。



さらに、この細胞から3種類の胎盤の細胞を作ることに成功しているが、栄養の吸収など、胎盤の細胞本来の機能を持っているかまでは確認できていないという。詳しい内容は京都大学ips細胞研究所のホームページで確認してほしい。
【京都大学 ips細胞研究所】
ヒトのナイーブ型iPS細胞から胎盤細胞を作る 〜体外での胎盤発生モデルの構築に成功〜
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/210408-000001.html
複数の方法で同様の胎盤細胞を確認できたことは、技術の確立がより進むものと考える。

幹細胞や胚の研究が何につながるのか

母親や胎児が危険な状態になる恐れがある妊娠高血圧症候群や、胎児の発育不全などの病気の発症する仕組みが分かることで、事前に治療が行える可能性が高まった。また胎盤が作成できれば、人口子宮が実現でき、他人の子宮を借りて出産する「代理出産」の必要がなくなる。

人工子宮の研究が始まっている

2017年にフィラデルフィア小児病院研究所のPartridgeらは、バイオバッグ(Biobag)と呼ばれるプラスチック容器に無菌的な人工羊水を充填させ、その中にヒトの妊娠23週齢に相当する日齢の羊の胎児を置き、4週間体外培養した後で、自発呼吸できる子羊が「出産」されたことを報告している。
【文献】Partridge EA, Davey MG, Hornick MA, et al. An extra-uterine system to physiologically support the extreme premature lamb [published correction appears in Nat Commun. 2017 May 23;8:15794]. Nat Commun. 2017;8:15112. Published 2017 Apr 25. doi:10.1038/ncomms15112



バイオバッグ(Biobag)は人工的に子宮あるはそれに類似する構造を作りだし、動物の胎児を育てるための人工子宮技術(artificial womb)で、胎児に栄養と酸素を送り、不要な物質を取り除きながら、体外で育てる技術(子宮外環境システム)。この技術は、通常生存率が著しく低い妊娠23週よりも早くに出産した超早産の新生児を救うための技術として研究開発が進められているという。
しかしこの技術には超えるべきいくつもの課題がある。

① バイオバッグ中の胎児を見ることによる母親の心理的な影響
② 人工子宮で生まれた子どもに異常があった場合の責任問題
③ 自らの体内で育てられないことに起因する子どもに対する愛情問題 ほか

が考えられる。
人口問題解消にもつなげられるが、決して命を「生産」するだけになってはならない。

ロボットが胚から育てる人工子宮システムを中国が開発

中国科学院傘下の蘇州医用生体工学研究所の研究チームは、2021年12月に、人工子宮の環境で胎児に成長する胚を監視し、世話をする人工知能システム「AIナニー(乳母)」を開発したと発表した。
中国の医療専門誌『Journal of Biomedical Engineering』には、この「AIナニー」は、すでに多数の胚の世話を進めているという。人工子宮あるいは「長期胚培養装置」と呼ばれる容器の中で、栄養価の高い液体で満たされたキューブを並べ、マウスの胚を成長させるという。この技術を応用すれば、人間の女性の胎内で育てることなく、体外で胎児を安全かつ効率的に成長させる可能性があると述べている。



「AIナニー」は、24時間体制で胚を上下させ精緻に胚を監視し、胚のわずかな変化でも検出し、二酸化炭素や栄養の投入、環境の微調整おこなう。さらに健康状態や発育の可能性によって胚をランク付けし、胚に重大な欠陥が生じたり死んだ場合は、機械から警告が発され、廃棄される。
「典型的なヒトの胚発生の生理学には、まだ多くの未解決の謎がある」ためそれ以降の段階の研究は重要であると、タブーとされている領域に踏み込む必要性を、研究を率いた孫氏らは示唆しており、「この研究は、生命の起源とヒトの胚発生のさらなる理解に役立つだけでなく、出生異常やその他の生殖医療問題を解決するための理論的根拠を示すはず」と研究を行う理由を述べている。

参考
生命の元作る「最後のピース」 PrES細胞の作製成功 理研など
https://news.yahoo.co.jp/articles/75eeeb762c575995f827c1e816bafe242f2a1294
iPSから胎盤の細胞、京大研究者ら作製に成功…不妊症の原因解明に
https://www.yomiuri.co.jp/science/20210408-OYT1T50046/
人工子宮での妊娠、出産はすでに起こっている……遺伝工学研究者が「大学は役に立たない」に反論する理由
https://bunshun.jp/articles/-/39363
女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚から育てる人工子宮システムを中国が開発
https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2022/02/post-632_1.php

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