4年間に3つ以上の新たな臓器が見つかる 今後も発見される可能性も

科学

われわれにはまだ見つかっていない未知の臓器が多数ある。2018年3月には体内の「間質」と呼ばれる空間の構造と分布に関する詳細が発表され、2020年10月には、鼻腔(びくう)と咽頭(いんとう)がつながる部分の頭蓋骨(ずがいこつ)の中に、未知の腺が隠れているのを発見されている。
2022年1月12日には、ものを噛むときに活躍する顎の筋肉「咬筋(こうきん)」の一種。これまで咬筋には2層の筋肉があるが分かっていたが、それらの奥に別の筋肉の層が隠れていたことが判明したという。これからも発見されるかもしれない。

「間質」空間の発見

米ニューヨーク大学のニール・シース教授などの研究チームが、体内の「間質」と呼ばれる空間の構造と分布に関する詳細を研究し、「人体の新しい器官を発見した」として、2018年3月27日の学術誌に論文を発表した。人体で最大の器官かもしれないとの見方も示しているが、この説に対して異論を唱える専門家もいる。
間質は、全身の組織と組織の間の液体で満たされた空間をさす。間質組織や間質液については従来から知られていたが、今回の研究では、これまで認識されていなかった人体の機能が解明されたとして、間質を「器官」と呼ぶことを提唱した。



その理由として、人体で最大の器官は、体重のおよそ16%を占める皮膚だが、シース教授の推定で間質は、体重の20%を占め、若者の身体では約10リットル分に相当することが分かったからだ。
シース教授の研究チームは、共焦点レーザーエンドマイクロスコープと呼ばれる技術を使った高性能の顕微鏡で、ヒトの胆管の生きた健康な組織を調べた。サンプルは、ニューヨーク市内の病院で膵臓(すいぞう)の手術を受けた患者13人から採取。組織を蛍光液に浸して詳しく観察したところ、液体がたまる部分に空間があることが判明。この組織が見つからなかったのは、顕微鏡で調べると脱水状態になって厚い層のように見えていたため、これまでは気付かれなかったと話す。
今回の研究では、間質空間ががん細胞の拡散を助け、がんが体内で転移する導管の役割を果たしている可能性があることも分かった。間質液を調べれば、がんの診断に役立つかもしれないとシース教授は述べ、がんだけでなく、ほかの疾患や体内の機能に関する医師の考え方を変えさせる可能性もあると話している。

鼻腔と咽頭がつながる部分の新たな器官

オランダがん研究所などの研究チームが、鼻腔(びくう)と咽頭(いんとう)がつながる部分の頭蓋骨(ずがいこつ)の中に、未知の腺が隠れているのを2020年10月に発見した。同チームは「TUBARIAL glands」という名称を提案しているという。
この臓器はがんの転移診断のためのスキャン検査で見つかった。研究チームは前立腺がんで治療中の患者100人の頭部と頸部(けいぶ)のスキャン画像を調べ、男性1人と女性1人の遺体解剖を行った結果、全員がこの臓器を対でもっていることが判明した。超音波やCTスキャン、磁気共鳴断層撮影(MRI)といった一般的な検査ではこの臓器は見つけられず、前立腺がんの転移を調べるPSMA PET/CTという先端のスキャン検査で初めて見つかったという。



これが新しい臓器なのか、それとも唾液(だえき)腺の一部とみなすべきなのかについては論議もあったが、詳しく調べた結果、解剖学的にも機能的にも新しい器官であることが裏付けられたとしている。
この器官は、小児や成人の慢性副鼻腔炎や耳の疾患の原因となる領域に位置している。この領域に問題があると、子どもは慢性的な耳の病気にかかりやすく、大人は耳管機能不全になりやすい。この器官を研究することで新しい治療法が見つかる可能性があると期待されている。

咬筋の2層の奥にある別の筋肉の層

スイス・バーゼル大学のジルヴィア・メゼイ博士率いる研究チームが、ものを噛むときに活躍する顎の筋肉「咬筋(こうきん)」の奥に別の筋肉の層が隠れていたことを発見し、2021年12月、解剖学の学術誌『アナルズ・オブ・アナトミー』(解剖学紀要)に掲載された。チームは第3層に対して「Musculus masseter pars coronidea(咬筋の筋突起部)」という新たな名称を付与するよう提案している。
研究チームは、ホルマリン漬けの人体サンプルと新たに献体された遺体を対象に、解剖およびCTスキャンによって咬筋の構造を分析した。その結果、計28体のサンプルすべてにおいて一貫して、第3の層が確認されたという。さらなる検証のために生きた人間のMRI画像を撮影したところ、こちらも同じ構造があることが判明した。



チームは第3層の位置や筋繊維の方向などから、既知の2層とは明らかに構造的・機能的に独立していると考えている。第3層は下顎の筋突起と呼ばれる部位につながっており、他の層と同様、下顎を上顎に引き寄せて咀嚼の機能を提供する。さらにこの層は、下顎を後方に動かすことができる唯一の筋肉でもある。後方へずらす機能により、口を閉じたときの顎の収まりをより安定させる役割を担っているという。

これからも新たな発見が

ベゼル大学はツイートを通じて研究を紹介し、「人体構造はいまだに、私たちを驚かせるようなサプライズをいくつか秘めています」とコメントしている。
また研究に参加したバーゼル大学のイェンス・クリストフ・トゥルプ教授は、「過去100年間で解剖学の研究は徹底的にされ尽くしたと一般に考えられているなか、私たちの発見はいわば、動物学者が新たな脊椎動物を発見したようなものです」と語った。



さらに米技術解説誌のインタレスト・エンジニアリングは今回の発見を取り上げ、「何年もかけて解剖学の授業をしていることを考えると、未知の器官や筋肉などが発見されることはいささか奇妙に思えるかもしれない。しかし、こうしたことはめずらしくないのだ」と述べ、今後も発見が続く可能性を示唆している。

参考
人体で最大、新しい「器官」を発見? 米研究
https://www.cnn.co.jp/fringe/35116822-2.html
wiki 間質
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%93%E8%B3%AA
人の喉に未知の臓器を発見、オランダ研究チーム発表
https://www.cnn.co.jp/fringe/35161316.html
「未知の臓器」発見か…耳、鼻、喉の疾患の新たな研究成果に期待
https://www.businessinsider.jp/post-222734
wiki 唾液腺
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%94%BE%E6%B6%B2%E8%85%BA
人体に新たな部位が発見される アゴの筋肉の奥に、未知の第3層
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/01/3-294.php
wiki 咬筋
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%92%AC%E7%AD%8B

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