岡山大中性子医療研究センターの道上宏之准教授らが中心となり、岡山大と近畿大、京都大などの研究グループ(がん研究創薬)は、最先端のがん放射線治療「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」に使う新しい薬剤を開発。5年後の臨床試験(治験)着手を目指す。
これまで認可されたホウ素製剤は1種類しかなく、頭頸部(けいぶ)のがんの治療にしか使用できないことから、新しい薬剤が求められていた。
今回の研究成果は2020年11月、国際科学誌に掲載された。
BNCTは、ホウ素と中性子の間で起こる反応を利用した治療法。ホウ素と中性子がぶつかると核分裂が起こって、粒子線の一種であるα(アルファ)線が発生する。α線は細胞を死滅させる力が強いことが知られており、がん細胞の内部でこの反応を起こしてα線でがんを死滅させようというのがこの治療法。α線はがん細胞1個分ほどの距離しか飛ばないため、正常細胞にはほとんど影響を与えることなく、がん細胞だけを選択的に破壊できる。
治療の鍵を握るのが、がん細胞だけに効率よくホウ素を入れるホウ素剤。現在使われている「BPA」はがん細胞表面の特定のたんぱく質を経由し、細胞に取り込まれる。だがBPAは、このたんぱく質が少ないがん細胞では効きにくいという課題があった。
グループは、ホウ素を多く含むが、がん細胞に取り込まれにくい既存の薬剤「BSH」と、がんに取り込まれやすい性質を持ち、臨床研究でがん治療に使われているペプチド(アミノ酸化合物)で作るナノチューブに結合させると、がん細胞だけに効率よく取り込まれることを新たに突き止めた。ナノチューブとBSHの複合体(「A6K/BSH」薬剤)は分子が大きいため、血管壁がもろいがん組織にだけ到達するという。
この薬剤を、脳にがん細胞を移植したマウスに投与し12時間後に観察した結果、薬剤はがん組織に多く集積していた。次にがん細胞に薬剤を直接投与し、中性子を30分間照射する別の実験を行ったところ、その大半を死滅させる効果があった。がん細胞内に入った複合体は、核周辺に集まっていることも確認。これらが高い破壊効果につながっているという。
ナノチューブとBSHの複合体(「A6K/BSH」薬剤)の合成は、ナノチューブの素とBSHを特定の濃度で溶かし混合するだけなので比較的容易に作ることが可能。またナノチューブはすでに安全性が確認され、他の病気の治療薬として臨床試験も進んでいる。
BNCTによる副作用としては、中性子線の影響による脱毛や炎症、白血球の減少などがあるが、抗がん剤や従来の放射線による治療よりも軽度とされている。
道上准教授は「頭頸部だけでなく、他のがんに効く可能性もある。治療の選択肢を広げるため、研究を急ぎたい」としている。
BNCTは、大阪医大の関西BNCT共同医療センター(大阪府高槻市)と南東北BNCT研究センター(福島県郡山市)の2カ所で受けられる。
南東北BNCT研究センター(福島県郡山市)
http://southerntohoku-bnct.com/
資料:BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)実用化推進と拠点形成に向けて
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/22976/00000000/torimatome.pdf
参考:
https://news.yahoo.co.jp/articles/b2d9533715f406d92e2ac91c73843432db58481e
https://www.asahi.com/articles/ASP1X6KL3P1NPPZB00J.html
コメント