人の脳は約2000億個の神経細胞があり、神経細胞には数百兆個のシナプスがつながっている。シナプスは1つのニューロンをほかの神経細胞につなぐことができ、大脳皮質だけでも、約125兆個ものシナプスが存在している。
神経細胞の末端にあるシナプスを活性化すれば、記憶の増強や運動機能の回復ができる。しかし不活性化させれば記憶の消去や運動機能低下を起こさせることができる。
11月15日に京都大学大学院医学研究科後藤明弘助教、林康紀同教授、理化学研究所脳神経科学研究センター村山正宜チームリーダー、Thomas McHughチームリーダー、大阪大学産業科学研究所永井健治栄誉教授らの研究チームが「光を使ってマウスの記憶を消すことに成功し、記憶が消える仕組みの一端を解明した」と発表した。この研究成果は、国際学術誌「Science」に11月12日付で掲載された。
記憶は脳の一部である「海馬」で短期的に保存された後、「大脳皮質」などの部位で長期的に保存される。この現象を「記憶の固定化」と呼ぶが、どの細胞がどのように活動して記憶できるのかは解明されていなかった。
研究では、イソギンチャク由来のタンパク質で、光を当てると周囲のタンパク質を「不活性」化する「光増感蛍光タンパク質」を使い、光によって神経活動の伝達効率が上昇する「シナプス長期増強」タンパク質を消去する方法を開発。
マウスの神経細胞内に注入し記憶タスクを実施した後、短期的に記憶される「海馬」の細胞だけに光が当て電気刺激を与えた。すると記憶の2~20分後に照射した場合、記憶が消えたという。
また脳のさまざまな場所で実験を行ったところ、学習の直後、その後の睡眠時、次の日の睡眠時等で脳の異なった部位の細胞が記憶を持つようになることが解明された。
この実験により、記憶に関する多くの脳機能を細胞レベルで解明することができる可能性があり、この研究が進むことで発達障害、外傷性ストレス障害(PTSD)、認知症、アルツハイマーといった記憶・学習障害だけでなく、統合失調症やうつ病の発症にも関わる治療にも活用できるのではないか考えられる。
参考
【京都大学】光で記憶を消去する -よい記憶に睡眠が必要な理由を解明-
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-11-15
京大、記憶が消える仕組みの一端を解明 光とイソギンチャク由来の成分でマウスの記憶を消去
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2111/17/news143.html
光を当て記憶を消去?京都大学、学習結果が長期記憶に移行する細胞活動を解明
https://jp.techcrunch.com/2021/11/15/kyoto-univ-light-erases-memory/
私たちの記憶と学習を司る「シナプスの可塑性」とは?
https://www.toyo.ac.jp/link-toyo/life/synapticplasticity/
人間の脳、地球上の全コンピュータより多くのスイッチを持つ–スタンフォード大学
https://japan.cnet.com/article/20423055/
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