皆さんご存じのように、日本人の死因第1位は「がん」です。これまでのがん治療には様々なメリット・デメリットが存在しています。昨年11月に保険適用になった第5の治療法「がん光免疫療法」が注目を浴びています。
1 これまでのがん治療
2 「第5の治療法」=がん光免疫療法
3 がんを撃退する仕組み
4 治験の成果
5 この治療に関する注意点
6 おわりに
がん治療は、手術療法、化学療法(抗がん剤)、放射線療法、免疫療法などがありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
①手術療法
体にメスを入れて正常組織とともに完全に切除(除去)して治す方法です。早期がんに対しては、手術だけで十分に治すことができ、進行あんでも積極的な切除により、ほかの治療と比べて良好な成績を得ることができます。重篤な基礎疾患がない、遠隔転移がないなどの手術適応を満たしていれば、手術治療が第一選択肢となります。
・完全に切除すればほぼ100%のがん細胞をなくすことができる
・一度の手術による効果が永続的
・放射線や抗がん剤治療に比べて副作用が少ない
デメリット
・出血や感染症、血栓症などのリスクがある
・切除後の臓器機能低下をおこすことがある
・遠隔転移などに対応できない
②化学療法(抗がん剤)
進んだがんに対しては、手術だけの治療では限界であり、「化学療法(抗がん剤)」「放射線療法」と手術を組み合わせで治療を行います。現在多くのがん治療ガイドラインにおいて最も有効な治療法として位置づけられています。がん細胞の増殖を妨ぎ攻撃するため、全身に転移してしまったがん細胞に効果がある全身療法です。抗がん剤は現在100種類以上あり、投与方法は点滴などの注射と経口の2種類があります。
・全身に対して効果があるので、手術療法の対象でないがんの治療もできる
・乳がんや前立腺がんなどホルモンがかかわっているがんに対して、薬物療法のホルモン療法によって治療が行える
・根治が望めない場合でも、QOL(Quality of Life)を維持しながらがんとともにできるだけ長く生きることができる
デメリット
・個人差があるものの副作用が起こりやすい
・長期間の使用によりがん細胞が薬剤への耐性を獲得する場合もあり、徐々に効かなくなることもある
・副作用には、脱毛、吐き気、食欲不振、倦怠感、しびれ、感染症リスクの増加、貧血、口腔粘膜の炎症などがあげられる
最近では「分子標的治療薬」という特定のがん細胞をターゲットにして作用する薬も使用され副作用が改善されてきている
③放射線療法
化学療法とともに実施されることが多く、放射線を照射してがんの病巣を直接攻撃する局所療法です。放射線療法は、体の外側から高エネルギーの放射線を照射する「外部照射」と、薬の投与や針の埋め込みなどによって体内に弱めの放射性物質を取り入れて照射する「内部照射」があります。
・外来治療が可能で、多くは入院しなくてもよいので治療費以外の出費が抑えられたり、仕事をしながらでも治療を行えたりできる
デメリット
・被爆するため、正常な細胞も傷つけられ、照射部位の臓器に障害がでることもある。
・内部照射の場合は、患者自身から放射線が放出されるため、他の人が患者の放射線を浴びないよう特別室に入るなどの行動の制限が必要となることがある
・副作用には治療中・直後に起こるものと、治療後半年から数年経って現れるものがあり、照射部分の皮膚がやけどや炎症を起こしたり、疲労感や吐き気、食欲の低下がおきたりする
④免疫療法
患者さん本人の細胞を利用して行われる全身療法で、どの進行度合のがんにも用いられており、幅広いがんを対象とします。
・他の治療法とくらべて、副作用が極めて少なく、患者さんの体への負担が軽い
デメリット
・効果が科学的に証明されるだけのデータの蓄積が少ない
・保険外診療であるため自己負担が高額であること
・タイミングによっては抗がん剤治療の効果を下げてしまう可能性がある
・多くは保険外診療のため全額自己負担となります。1回20~30万円程度で、6回で1サイクルとすることが珍しくないため高額になる
その他に、オプジーボ(一般名:ニボルマブ)と呼ばれる免疫チェックポイント阻害薬があります。一般にがん細胞は免疫細胞から攻撃を受けないための物質をだしますが、オプジーボはこれを防ぎ、免疫細胞を活性化させてがん細胞を殺させます。デメリットとして、皮膚障害や甲状腺機能障害、神経障害など、さまざまな免疫関連の副作用が報告されています。さらにこの治療自体によって直接がん細胞が減るわけではありませんので、がん細胞を破壊する「第5の治療法」が期待されていました。
この研究は2018年4月から国立がん研究センターで、頭頸部がんに対しての治験が開始され、2019年の米国臨床腫瘍学会で、第2a相臨床試験の結果が発表されるなど、有効性や安全性がともに良好な結果が出ており、皆さんにぜひ紹介したいと思いました。
がん細胞には普通の細胞にはない特別なたんぱく質があります。そのタンパク質と結合する抗体に、あらかじめ非熱性赤色光と化学反応を起こす光感受性物質をくっつけた付けた薬を静脈注射します。
この抗体が血液によって体内に行き渡り、がん細胞に結合するのを待ちます。その後、光ファイバーを体内に入れ病変に非熱性赤色光を照射します。すると光感受性物質が非熱性赤色光に反応して、がん細胞が破壊されます。光の照射時間は5分程度。
それは、まるで風船がはじけて壊れるようなイメージです。がん細胞の破壊には、光感受性物質と非熱性赤色光との反応が必要なため、非熱性赤色光が当たらない細胞では破壊は起こりません。
さらに、破壊されたがん細胞の破片が免疫細胞に作用し、がんに対する抗体増産の指令(抗原)を出し、残ったがん細胞に対する免疫細胞の攻撃がさらに増強するという治療効果もあります。
余命数カ月とみられる局所再発の頭頸部がん患者が対象になっているが、第2a相試験(第1相で安全性が確認された範囲内で、用法や用量を確認する試験)の30例のうち、腫瘍が完全に消えた人が4名(13・3%)、腫瘍が小さくなった人が9名(30・0%)。これらを合わせた奏効率(治療効果が現れた割合)は43・3%で、80%以上はがんの進行が止まっている。第3相試験(治験薬の有効性を調べる試験)後の2020年9月25日に「光免疫療法」の頭頸部癌治療薬が世界で初めて承認されました。
この「近赤外線免疫療法」に用いる治療薬は「アキャルックス点滴静注250mg」(一般名セツキシマブ サロタロカンナトリウム)といい、すでに製造販売が承認されています。
ベンチャー企業由来の新会社である楽天メディカル社(本社米カリフォルニア州サンマテオ、三木谷浩史会長)が、厚生労働省に対して3月に医薬品と医療機器の製造販売の承認申請して認可が下り、2020年11月に保険適用になりました。
今回の保険適用の対象は「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」。頭頸部がんは、鼻、口、のど、あご、耳などにできるがんで、6割がステージIII以上の進行がんで見つかる。治療して治っても約半数が3年以内に局所再発するという。同じ標的(分子)に抗体がくっつくがん細胞であれば頭頚部がん以外にも「子宮がん」「乳がん」「肺がん」「胃がん」「食道がん」などでも臨床試験が進められています。
がん光免疫療法は新しい治療法です。そのためどこの病院でも行われるわけではありません。機器を取り扱う医師のトレーニングも必要なので、最初は臨床試験に参加してきた全国10施設ほどから開始するとみられています。
治療費も高額で、1回の治療費用は600万円弱で、高額療養費制度を使うと自己負担は最大で30万円弱になります。
また光免疫療法は「仮免許」の段階であり、迅速に承認された代わりに、楽天メディカルは市販後に最終段階の治験などで得られた必要な有効性や安全性に関する詳しいデータを報告する必要が残されています。条件を満たせなければ承認が取り消される可能性もあります。
現在、「胃がん」「食道がん」に対しても臨床試験が進められています。
がん光免疫療法が治療として確立されれば、完治確率の低い「膵臓がん」を含むほとんどの固形がんを治せる可能性があります。これが実現すれば、がん医療に革命を起こし、多くの日本人に希望を与えます。一日でも早く普通の治療法となることを願っています。
参考
がん+プラス
新薬申請で期待高まる、がん光免疫治療の実用化
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「光免疫療法」保険適用で“がん撲滅”に光明 副作用がほぼゼロ、デメリットは?
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