植物は太陽エネルギーを利用して、二酸化炭素と水から有機物(でんぷん)と酸素を生み出すのが「光合成」。地球温暖化が深刻化するにつれ、温室効果のある二酸化炭素の削減が叫ばれるようになった。特に二酸化炭素の削減に寄与する植物は重要視され、人工的に「光合成」を行う技術開発にどの国も前向きだ。日本でも産官学連携で進められている「人工光合成」だが、中国のこの分野の研究は日本の一歩先を進んでいる。
9月25日、中国科学院は記者会見で二酸化炭素を原料とする「人工でんぷん」の合成に世界で初めて成功したと発表した。同成果は24日、国際的な学術雑誌「サイエンス」に掲載された。
Cell-free chemoenzymatic starch synthesis from carbon dioxide
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abh4049
これまでデンプンは植物の光合成によってしか手に入れることはできなかった。しかし人工的にデンプンを合成できれば、食糧危機に対応できる可能性が高まり、宇宙ステーションや火星のような場所でも植物に頼ることなく、二酸化炭素と水があれば人間の栄養(エネルギー源)を作り出せることに他ならない。今回の研究は従来の考え方の枠を大きく打ち破り、一つの解決策を見出したところに意義がある。
トウモロコシなどの農作物が光合成などででんぷんを合成する際には、60段階以上の生化学反応と複雑な調整が行われる。この生反応をそのまま人工的に行うとコストと時間がかかりすぎ実用的でない。中国の今回の研究の優れたところは、11段階の化学反応を経るだけででんぷんが合成されるところにある。
①高濃度二酸化炭素を生物学的触媒モジュールに通しメタノールに還元
②メタノールを触媒でいくつかの種類の炭素に変換
③いくつかの種類の炭素を合成してデンプンに変換
①自然の光合成によるデンプンの生成と比べ8.5倍も高効率で合成できる
②1立方メートルの装置で、3300平方メートルのトウモロコシ畑の年間生産量と同じデンプンを生産できる
③農作物の生産に数カ月かかるが、実験室では数時間で合成ができる
④気象の影響を受けない
⑤広大な畑が必要なくなり、農薬も使わない
⑥水資源を90%以上削減できる
この手法は実験段階であり、まだまだ改良の余地が残されており、今後は触媒の変換効率や生産効率の向上なども求められる。しかし二酸化炭素の活用が進めば様々な問題を一挙に解決する未来が待っているかもしれない。今後の研究がスムーズに進むことを願っている。
参考
中国、でんぷんの人工合成に世界で初めて成功
https://news.yahoo.co.jp/articles/521608267dac2be5745224b5c4f02a1f53f1e87f
二酸化炭素から「人工デンプン」を合成することに成功!
https://nazology.net/archives/97659
エネルギー問題解決は植物に学べ!? 人工光合成が世界を変える
https://www.webcg.net/articles/-/44576
太陽とCO2で化学品をつくる「人工光合成」、今どこまで進んでる?
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/jinkoukougousei2021.html
CO2を“化学品”に変える脱炭素化技術「人工光合成」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/jinkoukougousei.html
生細胞を使わずに畑作物よりも早くデンプンを作る
https://www.eurekalert.org/news-releases/928916?language=japanese
Cell-free chemoenzymatic starch synthesis from carbon dioxide
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abh4049
Chinese Scientists Report Starch Synthesis from CO2
https://english.cas.cn/head/202109/t20210924_284057.shtml
Chinese scientists report starch synthesis from carbon dioxide
https://phys.org/news/2021-09-chinese-scientists-starch-synthesis-carbon.html
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