我々は数多くのプラスチックの製品に囲まれて生活している。しかしそのことで知らず知らずのうちに体内に取り込み、体の不調を引き起こし、次の世代に異常を起こす原因をつくっているかもしれない。
乳児は立って歩くことができないため、呼吸のたびに床に落ちている微細なチリや埃を一緒に吸い込んだり、手あたり次第に口で舐めたりすることで体内に取り込んでいる。
10月に米化学会(ACS)が発表した最新の研究では、乳児が体内に取り込んでいるマイクロプラスチックの量は、成人の16倍に達していることが明らかになった。
プラスチックは、石油を原料とした合成樹脂で、紫外線を浴び耐久性が下がったものに、風や波の影響で5mm以下のものをマイクロプラスチックと呼んでいる。小さくなっても自然分解しないため、半永久的に海を漂い続ける。
研究を発表したのは、ニューヨーク大学医学部小児科と環境医学科の研究チームで、便のサンプルを検査して、そこに含まれる二種類のマイクロプラスチック【ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)】の量を検査したという。
10人の成人と6人の乳児のうち、すべての便サンプルのなかに少なくとも1種類のマイクロプラスチックを発見。驚くことに乳児の使用済みおむつを調べると、1gの糞便につき平均36,000ナノグラムのポリエチレンテレフタレート(PET)を発見。その量は成人のサンプルの10倍の量だという。さらにマイクロプラスチックは、血流に乗って運ばれることがあるほど小さいという。
研究チームは、幼児が人形や歯固め用のおもちゃ、哺乳瓶、マグマグなどプラスチック製品を噛むときに、体内に摂取されると考えている。「1歳前後の幼児は、プラスチック製品や衣類を頻繁に口に入れるものだ。
さらにポリプロピレン(PP)の哺乳瓶で粉ミルクを作ると、1日に数百万個、年間では10億個近くものマイクロプラスチックが接種されてしまうことが、数々の研究で明らかになっている。また加工された市販のベビーフードの多くは、プラスチック容器に入っていて、乳幼児がマイクロプラスチックを摂取するもう一つの原因になっている」と指摘する。また乳幼児がマイクロプラスチックを含むカーペットの上を這うときも、プラスチックの粒子を吸い込むと考えている。「PETとPPで作られたカーペットの上を、乳児が頻繁に這うと、マイクロプラスチックを体内に取り込む可能性がある」と研究者は主張している。
研究チームの一人であるニューヨーク大学医学部で環境健康科学が専門とするクルンタチャラム・カナンは、「残念ながら現代のライフスタイルにおいて、赤ちゃんはありとあらゆる物質に晒されており、しかもそれらが長期的にどんな影響をもたらすかはわかっていないのです」と語っている。
驚くべきことは、乳児の胎便サンプルからも少量ながらPETとPPの両方のポリマーが含まれていたこと。誕生の時点ですでに新生児の消化器内にはプラスチック粒子が存在することが示唆されている。このことは母体が吸収したマイクロプラスチックが胎盤を通じて胎児に影響を与えていることである。
化学物質であるプラスチックの問題もあるが、もう一つ製造過程でさまざまな目的で加えられる添加物や環境中に付着する物質や細菌も大きな問題となっている。
添加物は柔軟性や強度のアップ、あるいは素材を劣化させる紫外線からの防護などを目的は調合される。さらに環境中に放出されたプラスチックには鉛などの重金属やその他の汚染物質を蓄積する傾向がある。場合によってはプラスチック表面に有害な病原性ウイルスや細菌、菌類が付着している。
とりわけ問題なのが内分泌攪乱物質(EDC)という化学物質で、これらは内ホルモンを撹乱し、肥満を引き起こしたり、生殖・神経・代謝に悪影響を及ぼしたりすることが分かっている。プラスチック原料であるビスフェノールA(BPA)もEDCの一種で、がんとの関連が指摘されている。特に乳幼児には影響が大きく、少量でも悪影響を及ぼす可能性があるといわれている。
実験でコイにプラスチック粒子を食べさせて、栄養とともにマイクロプラスチックが消化管から吸収される「転移」という現象を確認している。この「転移」と呼ばれる現象は、非常に小さい粒子が、腸壁を通過してほかの器官に運ばれることをいう。実験のコイでは、腸壁を通過したマイクロプラスチックが頭部まで移動し脳に損傷を与え、コイの行動に異常をきたしたという。また対照群の個体と比べ、プラスチック粒子が脳に蓄積した個体では、活動量と採食スピードの低下がみられた。
直接的には人間と比較できないが、人でも悪影響が出る可能性があることを示している。
マイクロプラスチック汚染は、わたしたちの生活のありとあらゆる側面に及んでいるため、完全に取り除くことはできない。しかし、プラスチック容器を陶器やガラス容器に変えたり、床に落ちた化学繊維を取り除くため、掃除機ではなく粘着式クリーナーなどを使ったり、ラップ類の使用するのではなく蓋で覆うなど、少し変えるだけでも大切な家族がマイクロプラスティックに晒される量を抑えることはできるのではないだろうか。毎日の生活の中で考えていきたいものである。
参考
赤ちゃんは大人より大量のマイクロプラスチックを飲み込んでいた
https://news.yahoo.co.jp/articles/a45d25decac3ea5ee314e1cf87aba240d0412bf0
マイクロプラスティックは、乳児の体内にも蓄積されている:研究結果
https://wired.jp/2021/09/26/baby-poop-is-loaded-with-microplastics/
マイクロプラスチック問題とは?人体への影響は?原因と対策も解説
https://www.smart-tech.co.jp/column/environment-issues/microplastics/
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