また日本の地道な基礎研究が成果を上げた。長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科の北潔教授の研究チームが、マラリアの薬を開発するために使っていた天然のアミノ酸の一種「5-ALA(5-アミノレブリン酸)」が新型コロナウイルスの増殖も抑えることを発見した。
1 ウイルスの増殖を抑えるしくみ
2 食品に含まれる「ヘム(鉄)」には2種類ある
3 スキンケア化粧品の効果
4 がんの可視化にも貢献
5 増殖をゼロにすることが目標
「5-ALA」は「生命の根源物質」といわれ、36億年くらい前に生まれた化合物。私たち人間の細胞内でも作られており、安全性が非常に高く、10年以上前から医薬品をはじめ健康食品や化粧品などにも使われている。特に日本酒や納豆などの発酵食品に多く含まれているアミノ酸であり、発酵食品の健康効果を裏付けている。この「5-ALA」が8つ集まると「プロトポルフィリンIX【IX(PpIX)】」という物質になり、鉄(Fe)と結合すると「ヘム」になる。このヘムが新型コロナウイルスの表面にある「スパイクたんぱく質」に結合すると、ウイルスが細胞に侵入できなくなるため、体内でウイルスが増殖するのを防ぐことができる。
女性に多い貧血は鉄分の不足が引き起こすことが多い。体内の鉄と栄養摂取量の関連を調べたある研究によると、女性のほぼ半数は鉄不足。中でも、通常の血液検査の結果にはあらわれず、それとは気づきにくい「かくれ鉄不足」は、3人に1人ともいわれている。
「何となく体が重い」「疲れやすい」「頭が痛い」…といった不調を、年齢や体質のせいではなく「鉄不足」が原因のことも。
食品に含まれる鉄には、肉や魚などの動物性食品に多く含まれるヘム鉄と野菜や穀類などに含まれる非ヘム鉄があり、動物由来のヘム鉄の方が、植物由来の非へム鉄より鉄としての吸収率が高い。しかし日本人の食事から摂取する鉄の85%以上が吸収率の低い非ヘム鉄なのが問題となっている。鉄を効果的に摂取するには、動物由来のヘム鉄を豊富に含んだ食品をバランスよくとることが大切になる。
ILS Inc.:ヘム鉄
http://www.ils.co.jp/functionalfoods/product/hemeiron/
「5-アミノレブリン酸」を肌に塗ると、ミトコンドリアの機能が上がり、体内の代謝水が増加する。これによりみずみずしい肌になる。
産業医科大学脳神経外科の研究グループが『がん治療における「5-アミノレブリン酸」と放射線増感 ~現状と展望~』という論文を2018年6月6日に掲載している。
「5-アミノレブリン酸」が「プロトポルフィリンIX【IX(PpIX)】」となり、最終的にヘムに変換される工程が、がん細胞では正常に行われず、結果としてミトコンドリア内に【IX(PpIX)】が蓄積されることとなる。この【IX(PpIX)】は光感受性物質の性質を有しており、特殊な波長の光を当てることでがんを可視化できる。
産業医科大学脳神経外科の研究グループ
http://rbrc.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20180826151812-AC27AD232EFD31769872E3536FFCD31C30D7024319A1A4ECE79D19348F771F8F.pdf
「試験管の中では一定の濃度以上の投与で100%増殖を抑えられている。また再現性も非常に良い」と長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 北潔 教授が語っている。
「感染」とはウイルスの表面にあるスパイクタンパクと細胞の表面にあるACE2という受容体が結合し、ウイルス内の核酸が細胞の中に侵入すること。
「5-ALA」を投与するとPP9という化合物が作られ、このPP9がスパイクタンパクに付くことで、細胞表面の受容体と結合することを妨ぎ、感染を抑える効果が確認されている。
現在ワクチン投与が始まっているが、アレルギー症状の事例が報告されており、安全性に課題が残っている。「5-ALA」そのものにはウイルスを撃退する能力はない。しかし侵入してきたウイルスが増殖出来なければ発病することは抑えられる。さらにこの物質の利点はウイルスの変異にも効果があること。安全性も高く、室温で長期保存ができ、低価格で安定供給が可能な「5-ALA」。
来年1月から「5-ALA」の有効性や安全性を確認するため、長崎大学は製薬企業と共同で「特定臨床研究」を行うこととなっており、長崎県内外の複数の病院で、軽症または中等症の患者50人に投与する予定である。
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