次世代の海水淡水化手法を東大が発表 逆浸透法より高速で淡水を生成できる

テクノロジー

内面をフッ素で覆った微細なナノチューブの中に海水を通すことで、従来の逆浸透法より格段に淡水化スピードを向上させる手法を、東京大大学院工学系研究科の伊藤喜光准教授や院生の佐藤浩平さん(現東京工業大助教)らが開発し、5月13日付の米科学誌「サイエンス」に発表した。

地球上の淡水は地球の水の0.8%

私たちが住んでいる地球の水資源のうち、淡水の割合はわずか0.8%未満。その一方、人々が必要とする水資源の量は年々増加し、2050年には2000年比で1.5倍(約5,400Km³)となる予測もある。そのため世界各地で水資源確保のため様々な手法が開発され、海水の淡水化もその一つ。



海水には約3.5%の塩分が含まれており、そのままでは飲用に適さない。飲用水とするためには塩分濃度を0.05%以下にまで下げる必要があり、海水淡水化方法の主流は、「多段フラッシュ方法」「逆浸透法」の2方式があるが、他にも「超音波霧化分離法」なども研究が行われている。

「多段フラッシュ方法」
海水を熱して蒸発(フラッシュ)させ、再び冷やして真水にする「蒸留」で淡水を作り出す方式。熱効率を高めるため減圧蒸留されおり、多数の減圧室を組み合わせることが多いため、「多段フラッシュ方式 (Multi Stage Flash Distillation)」 と呼ばれている。生成された淡水の塩分濃度は低く、5ppm未満となり、大量の淡水を作り出すことができる。さらに海水の品質を問わないため、世界各地で活用されている。ただ熱効率がとても悪く多量のエネルギーを投入する必要があるため、エネルギー資源に余裕のある中東の産油国に多く採用されている。

「逆浸透法」
海水に圧力をかけて「逆浸透膜(RO膜)」という濾過膜の中を通し、海水の水分と塩分をろ過・分離して淡水を作り出す方式。
「多段フラッシュ法」よりエネルギー効率に優れている反面、RO膜が海水中の微生物や析出物で目詰まりしないよう点検が必要となるなど、整備にコストがかかる。生成された淡水の塩分濃度は蒸留を行うフラッシュ方式と比較して若干高く、100ppm未満である。1990年代までは比較的小規模のものが多かったが、近年では日量1万トンを超える大型プラントも建設され、世界的にこの形式で建設されることが増えている。
「逆浸透膜(RO膜)」は元の海水の塩分濃度が高い、また得ようとする淡水の塩分濃度が低いほど、高い圧力をかけて濾過する必要があり、日本の飲料水基準に適合する塩分0.01%の淡水を得るためには最低55気圧程度の圧力をかける必要があり、この圧力に耐えるRO膜が必要。このためRO膜は圧力に耐えるよう、
①パスタ程度の太さで中が空胴の糸状に成型し、外側から内側へ濾過する【中空糸膜】。
②1枚の濾過膜を、強度を保つため丈夫なメッシュ状のサポートと重ね合わせて袋状に閉じ、これをロールケーキ状に巻いてその断面方向から加圧する【スパイラル膜】。



「超音波霧化分離法」
超音波で液体を振動させることで液体が霧化・分離する「超音波霧化分離」を利用して海水中から水分を分離する手法。超音波加湿器などで採用されている方法だが、現在研究中である。
「フッ素で覆った微細なナノチューブ」

【Science】Ultrafast water permeation through nanochannels with a densely fluorous interior surface

Handle Redirect

今回の研究チームが開発したのは、極細の中空糸膜の内側にこげつかないフライパンに塗布されているフッ素がコーティングされているのが特徴。
フッ素はマイナスの電気を帯びており、同じマイナスの電気を帯びている海水中の塩分(塩化物イオン)と反発し合うため、塩分は通り抜けられず、水分だけ中空糸膜を通り抜けることで海水を淡水化する。



東大の相田卓三教授や伊藤喜光准教授らは、中空糸の内側にフッ素を含む有機化合物で、小さなリング状の分子を合成し、このリングをいくつも重ねることで、内側の穴の直径が0・9ナノメートル(ナノは10億分の1)という極細のチューブを作った。
淡水化効率も高く、人間の細胞には水だけを効率よく通すたんぱく質「アクアポリン」があるが、フッ素で覆った微細なナノチューブは、人の細胞のアクアポリンに比べて4500倍の速度で水を通すことも分かった。これはこれまでの淡水化装置と比較ならないほど高速であり、省エネルギーで実用的な水資源を得ることができる。

今後の課題

中空糸膜構造の課題同様、海水中の微生物や析出物で目詰まりしないよう点検が必要となるなど、整備にコストがかかる。また効率よく淡水を生成できる分、超高濃度の塩水が排出されることが考えられる。場合によっては、超高濃度の塩水を排水する近辺の環境に負荷がかかり、最悪の場合、生物の生息に適さない場所ができる可能性がある。
これらの環境問題も並行して解決する方法を考えていかねばならない。

参考
海水を飲み水に変える「極細チューブ」 東京大学が開発
https://www.asahi.com/articles/ASQ5C7FQGQ5CULBH00R.html
海水淡水化と下水処理技術の融合で、エネルギーやコストを大幅削減
https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201803gwsta/index.html
内面にフッ素のナノチューブ 海水淡水化に応用期待―東大
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022051300087&g=soc
wiki 海水淡水化
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E6%B0%B4%E6%B7%A1%E6%B0%B4%E5%8C%96

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