東京大学医科学研究所がイギリス時間11月2日、抗PD1抗体は老化細胞の免疫監視を強化し、老年病・生活習慣病を改善することを英国科学誌「Nature」のオンライン版に発表した。
それによると、がん免疫治療薬「オプジーボ」をマウスに投与すると、体内の老化細胞が減り、身体機能が改善し、様々な臓器・組織の老化防止や生活習慣病の治療につながる可能性があることが分かったという。
「オプジーボ」は、従来の抗がん剤のようにがん細胞を直接攻撃する薬ではなく、免疫細胞ががん細胞を攻撃できる環境を作り出す薬で、2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑氏の研究をもとに開発された。
がん細胞の中には、PD-1とPD-L1という物質を作り出すことで免疫からの攻撃を回避し、生き延びやすい環境を自ら作り出すものもいるため、根治が難しかった。
「オプジーボ」はこのPD-1とPD-L1の結合を外して、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする機能を持っている。
東京大と金沢大のチームが発表したこの研究は、細胞の老化のメカニズムが分かり、身体機能改善に繋がるものといえる。
【東京大学プレリリース】
抗PD1抗体は老化細胞の免疫監視を強化し、老年病・生活習慣病を改善する
研究のポイントは大きく次の2つ
②抗PD1抗体を加齢マウスや生活習慣病マウスに投与すると、その生体内から老化細胞が除去され、様々な臓器・組織の老化現象や老年病、生活習慣病が改善できた。
今回の研究で、高齢になると免疫療法の有効性が低下する要因と、がん細胞が発症しやすくなるメカニズムがよりはっきりしたと言える。
今後研究グループは、研究成果が新たな治療法につながるとみて、併用治療の臨床応用を目指すとしている。
2014年に世界初の免疫治療薬として承認された「オプジーボ」だが、薬価の改訂で低下している。
2014年当時は体重66kgの人(日本人の男性の平均体重)が1年間投与した場合は月に約300万円、1年間では3,800万円かかっていたが、2018年11月では当初の4分の1程度の年間1,090万円ほどで、高額な医療費の負担を軽減させるためにある「高額療養費制度」を活用しても自己負担額60万円強を覚悟しなくてはならない。
決して安い金額とはいえないが、がん以外にも体内の老化細胞を減少させ、身体機能の改善、様々な臓器・組織の老化防止や生活習慣病の治療に使える薬があるのは心強いかも知れない。もっと普通の薬となることを願っている。
参考
がん治療薬「オプジーボ」の治療効果を早期に予測できる最新の検査法( 2019/06/21 )
https://www.senshiniryo.net/column_a/35/index.html
【Nature】Blocking PD-L1–PD-1 improves senescence surveillance and ageing phenotypes
https://www.nature.com/articles/s41586-022-05388-4
高額と言われるオプジーボの治療費、実際はいくらかかる?
https://www.ganchiryohi.com/treatment/512
「オプジーボ」投与で老化細胞が減少、身体機能改善…東大などチーム発表
https://www.yomiuri.co.jp/science/20221102-OYT1T50184/
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