新型コロナの全ゲノム解析でさらなる変異への対応や対策の手がかりを見つけた

テクノロジー

新型コロナの感染者数が高止まりしている。その要因として次々と出現する変異コロナの出現だ。これまでどのような仕組みで、これほどの短時間に変異が進むのかが良く分かっていなかった。

国や各大学が全力で変異の仕組みを探る新型コロナのゲノム解析を行ってきたが、東北大学の研究グループが、特定の領域に未知の仕組みによる塩基配列の挿入や欠失、入れ替わりが集中していることを突き止めた。

感染力の強い「BA.5」や「BA.2.75系統」

8月6日23:59時点での感染者数は全国で227,563人。新型コロナの自宅療養者が過去最多の143万8000人余になっている。ワクチン接種が比較的進んでいる日本だが、確認できる世界の感染者数比較では世界で一番感染者数が多い。直近の感染状況はNHKの特設サイトでも確認できる。
【NHK】特設サイト 新型コロナウイルス

新型コロナウイルス 感染者数やNHK最新ニュース|NHK特設サイト
【NHK】新型コロナウイルスの日本国内の感染者数や最新ニュースはこちらです。初期症状や感染予防の情報、ワクチン・治療薬・PCR検査に関する最新情報、補助金・助成金などの支援情報、学校関連の情報、政府や各都道府県の対応、分科会の見解や提言、番組のお知らせなどをまとめています。

さらに詳しい内容はNIID国立感染症研究所で確認できる。



【NIID国立感染症研究所】新型コロナウイルス感染症の直近の感染状況等(2022年8月3日現在)

新型コロナウイルス感染症の直近の感染状況等(2022年8月3日現在)

国や各大学でも全力を挙げて新型コロナの遺伝子解析に取り組んでいる。国立遺伝学研究所も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に際し、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の全ゲノム解析による分子疫学調査(SARS-CoV-2 RNA全ゲノム解析)を静岡県と連携・協働して進めている。

【国立遺伝学研究所】国立遺伝学研究所が取り組む新型コロナウイルス・全ゲノム解析の紹介

国立遺伝学研究所が取り組む新型コロナウイルス・全ゲノム解析の紹介 | 国立遺伝学研究所
遺伝学の中核拠点として生命システムの解明を目指す先端研究を進めています。また、生命科学の基盤となる研究事業を展開しています。これらの活動により、共同利用・共同研究を推進しています。総合研究大学院大学 生命科学研究科 遺伝学専攻を併設し、優秀な研究者を世に送り出しています。
コロナウイルスは既知の6種類と新型コロナがある

コロナウイルスは身近なウイルスだ。ヒトに感染するコロナウイルスは、風邪の病原体として人類に広く蔓延している。
ヒトが日常的に感染する4種類のコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV)は、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1で、風邪の10~15%(流行期35%)はこれら4種のコロナウイルスを原因としている。冬季に流行のピークが見られ、ほとんどの子供が6歳までに感染を経験する。我々はこれらのウイルスに生涯に渡って何度も感染するが、軽い症状しか引き起こさないため、問題になることはない。



問題は「人獣共通感染症」といわれる「動物から感染した重症肺炎ウイルス」の2種類の方だ。

①重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)
コウモリのコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったコロナウイルス。新型コロナウイルスも2019年に中国武漢市で発見され、全世界に感染拡大した。ウイルスの遺伝子配列からコウモリのコロナウイルスを祖先にもつと考えられるが、一部の配列がセンザンコウのコロナウイルスと似ているという報告があり、過去に2種類の動物コロナウイルスが遺伝子組み換えを起こした可能性が考えられている。実際にどのような経緯でこのウイルスが人類に感染するようになったのかは明らかになっていない。

②中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)
ヒトコブラクダに風邪症状を引き起こすウイルスであるが、種の壁を超えてヒトに感染すると重症肺炎を引き起こすと考えられている。

【NIID国立感染症研究所】コロナウイルスとは

コロナウイルスとは

しかし未だに新型コロナには分かっていないことが多い。

さらなる変異への対応や対策の手がかり

2022年7月25日、東北大学大学院医学系研究科の赤石哲也助教(漢方・統合医療学)を中心とした研究グループが、SARS(重症急性呼吸器症候群)関連コロナウイルス同士のゲノムを解析し比較したところ、特定の領域に長い塩基配列の挿入や欠失、入れ替わりが集中して起こす、未知の仕組みによる変異の可能性があることを突き止めた。この成果は2022年7月21日に、米国微生物学会のJournal of Virology誌(電子版)に掲載され、東北大学が7月25日に発表した。



【東北大学プレリリース】コロナウイルスのゲノムに蓄積した進化の痕跡を発見 コロナウイルスがもたらすパンデミックの機序解明へ期待

コロナウイルスのゲノムに蓄積した進化の痕跡を発見 コロナウイルスがもたらすパンデミックの機序解明へ期待
【本学研究者情報】 〇大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座 助教 赤石哲也ウェブサイト 〇病院総合地域医療教育支援部 教授 石井正ウェブサイト 〇大学院医学系研究科分子病理学分野 名誉教授 ...

この研究のポイントとしては、

①新型コロナウイルス感染症のパンデミックをもたらした SARS-CoV-2 を含む複数のSARS 関連コロナウイルスの全ゲノム配列を比較した。
②その結果、30カ所以上のゲノム領域で、長い配列の挿入・欠失、あるいはその両者が同時に起きていることを確認した。
③この研究により、同ウイルスのさらなる有害な変異を阻止する手段を探る手がかりとなる可能性がある。

特に驚くべきことは、30カ所以上の挿入や欠失があり、その多くが10塩基以上、所により100塩基をも超える比較的長い配列に及んでいたことだ。
これほど一定の長さの配列が“ゴソッと”入れ替わるタイプの変異が頻繁に起きることは、これまであまり見られなかったことだという。



これまでの1塩基が入れ替わったり、少数が挿入されたり欠失したりする古典的に知られる変異とは明らかに異なる。しかもゲノムの2つの領域に集中していることから、単なる偶然ではなく、何らかの未知の仕組みによる可能性があるという。
こうした変異を引き起こす宿主(ヒトや動物)の要因や未知の仕組みを解明できれば、新型コロナウイルスの変異で起こる問題への対処に役立つものと期待されている。
研究グループの東北大学大学院医学系研究科の赤石哲也助教(漢方・統合医療学)は「10塩基以上の挿入と欠失が、偶然とは思えないほど同じ領域に高頻度に起こっていたのは意外なことだった。この現象の仕組みや、挿入された塩基の由来、そして人間に起こるパンデミックへの関与度など、非常に興味深い」と述べている。

このような変異を調べるには時間のかかる地道な作業が伴う。しかしこの研究がもたらす重要性は日増しに高くなっていると考える。今後の進展に期待したい。
参考
コロナウイルスのゲノム変異に未知の仕組みか、大流行解明に光 東北大
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20220805_n01/
新型コロナウイルスのウイルス学的特徴
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/P11-18.pdf
オミクロン株 全ゲノム解析で判明 “未知の変異”のリスクとは
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20220121a.html

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