カーボンニュートラルの期待の星となるか!?植物プランクトンDicrateria rotundaの炭化水素を合成する能力

テクノロジー

2021年7月19日に国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)と、豊橋技術科学大学 生理学研究所が、石油と同等の炭化水素を合成する能力を持つ植物プランクトンを世界で初めて発見したと発表した。

ipcc第1作業部会の報告書が警告

地球温暖化の深刻さが毎日のように報告されています。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1作業部会が8月9日、世界の平均気温の産業革命前からの上昇幅が、今後20年間で1・5度に達する可能性があるとする報告書を公表。このまま大気中の温室効果ガス濃度は上昇し続けると、世界中で異常気象の増加などの悪影響が頻発することを警告している。報告書の公表を受け、国連環境計画(UNEP)のアンダーセン事務局長は、「気候変動は今ここにある問題だ。(気候変動の影響に対して)安全だと言える人は誰もいない。事態はより速いスピードで悪化している」と危機感をあらわにしている。


化石燃料に依存している日本

今、化石燃料の消費削減は世界の喫緊の課題。そのため日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標を掲げ、太陽光や風力などの自然エネルギーの活用と化石燃料を生物由来のバイオ燃料に代替することを考え研究開発を進められている。
日本の発電割合は、2019年時点で76%を石炭・精油・天然ガスなどの化石燃料、原子力は6%、太陽光・風力発電は18%に過ぎない。

日本政府の現行の目標では、30年度に再生エネと原子力の比率を計4割超まで増やす。経済産業省はこういった電源の比率をさらに引き上げる方針で、計6割とすることを視野に検討中だ。海外では再生エネの発電コストが石炭火力を下回る地域が増えており、先行する欧州では既に5割を超える国もある。

カーボンニュートラルを目指す日本

カーボンニュートラルとは、「植物や植物由来の燃料を燃焼してCO2が発生しても、その植物は成長過程でCO2を吸収しており、ライフサイクル全体(始めから終わりまで)でみると大気中のCO2を増加させず、CO2排出量の収支は実質ゼロになる」という考え方で、CO2排出量を削減するための植林や再生可能エネルギーの導入など、人間活動におけるCO2排出量を相殺することもカーボンニュートラルと呼ばれている。



日本政府は次のように定義している。

環境省 カーボン・ニュートラルの定義
市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガス排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせた状態をいう。
(※環境省 カーボン・オフセットフォーラム/カーボンニュートラルとは?より引用)

水素と植物由来のバイオ燃料活用社会

再生可能エネルギーの電力を使って水を電気分解する、水電解の技術を研究が進んでおり、トヨタ自動車は水素で動くMIRAIという自動車を開発している。
バイオ燃料では、2013年8月~10月、研究船「みらい」で北極海を調査し、細長いひも状の「べん毛」で動き回る体長数マイクロ・メートル(マイクロは100万分の1)の植物プランクトン(D. rotunda)を採取し培養して性質を調べたところ、ガソリン、軽油、重油と同等の成分(炭化水素)を合成する能力を持つことが判明。

植物プランクトンDicrateria rotundaが石油と同等の炭化水素を合成する能力をもつことを発見<プレスリリース<海洋研究開発機構 | JAMSTEC

これまで特定の石油成分を作る生物は知られていたが、一つのプランクトンで様々な成分を作り出せる生物の発見は初めてという。このような植物や藻類の光合成によってつくられたバイオ燃料は、成長過程で合成に必要な炭素を吸収するため、燃焼させても大気中の正味のCO2濃度を増やすことにはならず、植物や藻類が合成する炭化水素は原油の代替エネルギー源として有望。



D. rotundaの詳しい性質はまだ分かっていないが、光合成できない暗い場所や、生存に必要な窒素が不足した環境では、石油成分の合成量が4~5倍ほどに増えたという。
D. rotundaのつくる一連の飽和炭化水素の成分は石油と同等であり、「質」としてはバイオ燃料として申し分ありません。一方で、合成する「量」が課題となっている。
D. rotundaが炭化水素を生成する理由やメカニズムはよくわかっていない。 体内に蓄えられている量はわずかだが、量を増やす改良などをして、新たなバイオ燃料の開発につなげられないか注目されている。
これまで商品化が進んでいるバイオ燃料の多くはエネルギー量が低い脂肪酸由来が多く、バイオ燃料に詳しい東京大の岡田茂准教授(水圏天然物化学)によると、「海洋には有用な性質をもった植物プランクトンがほかにも存在しているだろうが、研究には時間も費用もかかる。政府はメカニズム解明などの基礎研究を積極的に支援してほしい」と指摘している。
このような基礎研究が明日の明るい日本に繋がることを願っている。

参考
「カーボンニュートラル」をわかりやすく解説!脱炭素社会の実現について考える
https://www.toshibatec.co.jp/products/office/loopsspecial/blog/20210625-64.html
石油と同じ成分作る植物プランクトン、北極海で発見…バイオ燃料開発に期待
https://www.yomiuri.co.jp/science/20210811-OYT1T50098/
ガソリンと同じ成分作る植物プランクトン発見
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210726/k10013159751000.html
石油と同じ成分作る植物プランクトン、北極海で発見…バイオ燃料開発に期待
https://www.yomiuri.co.jp/science/20210811-OYT1T50098/
石油と同等の燃料を合成できる植物プランクトン。海洋研究開発機構が世界初の発見
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1340893.html
電源構成とは エネルギー別に分類した発電設備の割合
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2459Z0U1A520C2000000/
凶暴化する異常気象「速いスピードで悪化」 IPCC報告書の警告
https://mainichi.jp/articles/20210809/k00/00m/030/210000c

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