欧州主導のEV(電気自動車)化にほころびが 日本が誇るHVと合成燃料で今後もエンジンが活躍

テクノロジー

欧州の2035年までの全新車ゼロエミッション化にドイツ産業界が反対を示し、内燃機関搭載車の一律禁止には反対した。そのため欧州全体でのEV化は遅れることに。
またここに来て、CO2と水素から作られる「合成燃料」に熱い視線が注がれており、今後もエンジンが活用される可能性が高まっている。

CO2排出基準に関する規則の改正案

欧州委員会が昨年提出した「CO2排出基準に関する規則」案は、2035年時点で欧州で販売される新車のCO2排出量を100%削減(ガソリン車やディーゼル車を販売させない)というものだった。
しかし、イタリア、ポルトガル、スロバキア、ブルガリア、ルーマニアの5カ国は、充電インフラを充実させるためには時間が必要であり、消費者も高額なEV車の購入には時間が必要との理由から、2035年時点で90%、2040年時点で100%とするよう主張。



長時間の議論の末にEU27ヵ国の環境大臣は、ドイツが提案した「ハイブリッドと(脱炭素を可能にする)代替燃料の気候目標達成効果について、2026年に判断する」という妥協案を含めるかたちで、リミットを2035年として合意した。
リミットの2035年は変わらなかったが、脱炭素に向けてEUの方針に軌道修正の可能性が見え、「合成燃料」などの新燃料活用となるが、エンジン車販売継続の道が閉ざされない模様だという。

CO2排出基準に関する規則の改正にドイツ産業界が反対

2021年までは「これからはEVだ!」と強く主張していたが今年に入ってからは欧州自動車メーカーのトップによる電気自動車(EV)に関して慎重ともとれる発言が多くなっている。
2021年までの欧州のEV販売は飛躍的に伸びていた。2018年のEV市場はわずか1.3%だった。2019年でも2.3%の微増だったが、2020年には6.2%、2021年には10.3%と自動車市場の1割を占めるまでになっている。



特にEV化に舵を切ったのがノルウェーで、シェアがなんと63.7%にもなっている。それに続くのがオランダの19.8%、スウェーデンの19%。
それ以外はドイツが13.5%、イギリスが11.6%、フランスが9.8%と、市場の1割程度を占めるまでになった。こうした好調な販売が自動車メーカーのEVシフトを後押ししたのは間違いない。
しかしロシアによる「ウクライナ侵攻」やロシアと欧州とのガス供給問題、世界的な部品供給問題と電子部品の不足など、今年初めだけでも予想もつかない様々な問題が発生しており、EV化の流れにも暗雲が立ち込め始めている。

ドイツ自動車産業連合会(VDA)は、CO2排出基準に関する規則の改正採択前日の6月7日に全新車ゼロエミッション化達成目標年を2035年に固定するのは時期尚早であり、2028年に詳細なレビューを行い、充電スタンドなどのインフラの普及状況などを勘案したうえで、2030年以降の目標を決定すべきと表明した。さらに2035年以降も合成燃料などカーボンニュートラル達成に貢献する全ての技術を堅持すべきで、内燃機関搭載車の一律禁止には反対している。
EV化は各国のエネルギー問題にも大きくかかわっているため欧州内でも完全に一枚岩で進んでいた話ではない。



EV化を強く推進しているのがフランスで、電力を原子力発電所で賄うため余裕がある。しかしドイツはロシアから天然ガスを輸入することで国内の電力を賄っていることもあり、発電に不安要素を抱えている。
「PHEVやHEVも継続販売可能にしよう」となる可能性が高くなっているといえよう。
アメリカではバイデン政権が2030年に新車販売の50%をゼロエミッション車にするとしている。日本政府は2030年代半ばまでに、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、電動車のみを販売する予定としている。

EV化は環境保全のためではなく自動車業界内の覇権争い

「EV化」は環境保全のための動きと受け取られているが、その本質は自動車業界内の覇権争いであり、欧州におけるトヨタ自動車をはじめとした日本のHV(ハイブリッド車)の排除という一面がある。企業にとっては負けられない戦いをしているといってもよい。

計画発表からおおむね1年がたち、実際に製品を販売してみて、なんとなく手ごたえも得られてきたはずだ。方向転換とまではいかなくても、調整くらいは必要になったのかもしれない。

CO2と水素から作られる「合成燃料」

2050年のカーボンニュートラルに向けて、合成燃料への期待が高まっている。
合成燃料とは、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)から人工的に作られる燃料で、発電所や工場、大気中から回収したCO2とグリーン水素(製造時にCO2を排出せずに作られた水素)を合成してつくる。
合成には太陽光、水力、バイオマスなど再エネ由来の電力を活用し、家庭や工場で使われない余剰電力でつくるという。



水素の製造に関しては2021年8月26日に、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は世界初、人工光合成により100m2規模でソーラー水素を製造する実証試験に成功しており、ソーラー水素の安全な製造と分離・回収技術を確立し、大規模化へ取り組んでいるという。
【NEDO】世界初、人工光合成により100m2規模でソーラー水素を製造する実証試験に成功

世界初、人工光合成により100m2規模でソーラー水素を製造する実証試験に成功 | ニュース | NEDO
NEDO:世界初、人工光合成により100m2規模でソーラー水素を製造する実証試験に成功

TOYOTA自動車は水素を燃料とする水素自動車「MIRAI」を販売しており、燃料の多角化も進めている。

今後の自動車が何をエネルギーとして走るのかは見通しが曖昧のままだが、様々な燃料に対応できるエンジンを開発してほしい。
参考
ドイツ産業界、2035年までの全新車ゼロエミッション化に反対
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/06/2467b0c73ff479d7.html
欧州自動車メーカーの態度に変化アリ? EVシフトにみるメーカートップの本音と建前
https://www.webcg.net/articles/-/46403
欧州主導の「急激なクルマの電動化」にほころび! エンジンがまだまだ重要になる可能性が見えた
https://www.webcartop.jp/2022/03/861063/
カーボンニュートラルの切り札となるか、CO2と水素から作られる「合成燃料」の実力
https://news.yahoo.co.jp/articles/cbf60210d9d541b98c2bec00cf432a057a8a73d3?page=1
ハシゴ外されてない? 大丈夫?? 欧州が純EVの方針を修正 日本メーカーはどうする???
https://bestcarweb.jp/feature/column/473289

コメント

タイトルとURLをコピーしました