近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室(消化器内科部門)主任教授工藤正俊らの研究グループは、これまで治療法が存在しなかった多発・大型肝がん患者の生存期間を約2倍近く延長させ、死亡リスクを52%低減させることを世界で初めて証明した。
従来なら、TACEという肝動脈化学塞栓(そくせん)療法→薬物療法という順番で治療が行われていたが、予後(治療後の生存の見通し)は必ずしもよくなかった。
工藤教授は治療の順番を入れ替え、LEN【薬物療法(分子標的薬「レンバチニブ」)】→TACEの順番の臨床試験(治験)を内外で実施。まず薬物療法のレンバチニブが、がん細胞の増殖に関係のある血管新生や悪性化を阻害し、がんを壊死(えし)・縮小させたうえで、TACEは、がん細胞に栄養素を送っている動脈(血管)をふさいでがんを兵糧攻めにする。
今回考案されたLEN-TACE シークエンシャル療法と、1970年代に確立された標準治療法を比較した臨床研究を2008~2018年の間に、国内7施設と香港1施設の計8施設で行われた。全肝多発・大型の進行期の患者さんで、レンバチニブを先行投与された(LEN-TACE シークエンシャル療法)患者さん30人とTACE単独治療60人の患者さんを対象に、奏効率、肝機能悪化の推移、無増悪生存期間、全生存期間で評価。
その結果、レンバチニブ先行投与群の奏効率は73.3%、TACE単独が33.3%。肝機能の悪化も有意に低く、無増悪生存期間はレンバチニブ先行投与群が16か月、TACEが3か月であった。全生存期間は、レンバチニブ先行投与群が37.9か月、TACEが21.3か月。生存期間を2倍近く延長させ、死亡リスクを約52%下げることを証明した。
また、レンバチニブ先行投与群のうち4人は、がん細胞がすべて消失し完全治癒。無治療のまま経過観察している患者さんも。極めて治療効果の高い方法で、完全治癒の可能性もある治療法として期待されている。
肝臓がんは、早期、中等度早期(少数多発・中型)、中等度進行期(全肝多発・大型)、進行期(脈管侵襲や遠隔転移あり)、末期と大きく5つに分類されているが、最も患者数が多い、中等度進行期では、TACEの効果が乏しく再発を繰り返し、進行がんや末期に移行してきた。
LEN-TACE シークエンシャル療法が、生存延長効果を証明したことにより世界の肝がんの治療体系を大きく変え、新しい標準治療法になることが予測されている。
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【用語解説】
分子標的薬
正常の細胞も障害を受ける従来の抗がん剤とは異なり、がん細胞の増殖などに関わる特定の分子のみを狙い撃ちして、その働きを抑える薬のこと。肝がんの場合はレンバチニブ(レンビマ)の他にソラフェニブ(ネクサバール)、レゴラフェニブ(スチバーガー)、ラムシルマブ(サイラムザ)など4種類の薬が承認されている。
肝動脈塞栓療法(TACE)
肝臓は肝動脈と門脈という2つの血管から栄養が入っている。肝臓がんは肝動脈のみから100%酸素と栄養を受けているため、カテーテルを通して肝動脈を完全に塞いで兵糧詰めにすることにより、がん細胞のみを死滅させる方法。腫瘍のサイズや個数が少ない場合は、この方法は効果的だが、サイズが大きい場合や個数が多い場合は、カテーテルを腫瘍の近くまで近づけることが難しく、効果も悪くなるばかりか正常な周りの肝組織の細胞もある程度死滅させるため肝機能を悪くさせる原因にもなる。
参考:
http://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/210311/lif21031120000025-n1.html
https://www.kindai.ac.jp/news-pr/news-release/2019/07/017495.html
https://cancer.qlife.jp/news/article10583.html
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