ES細胞、iPS細胞に続く「第3の万能細胞(Muse細胞)」が“ALS治療”に光を!

健康





突然発症し短期間のうちに進行する深刻な神経難病、ALS。 日本における患者数は約1万人で、毎年1,000~2,000人が新たに診断されている。この難病に治療の可能性が出てきた。2020年11月12日、ANNnews報道によると、ALS(筋萎縮性側索硬化症)は中年期以降に発症することが多く、運動ニューロンが選択的に変性脱落するため、四肢筋力低下と筋萎縮、構音障害と嚥下障害が出現し、やがて呼吸筋まひによる呼吸不全が進行し、通常発症から3~5年で死亡する神経系難病。現在、ALSの発症原因は不明であり、治療にはグルタミン酸拮抗剤リルゾールとラジカル消去薬エダラボンが使用されているが根本的治療薬は存在していない。今回岡山大学の研究チームが10月13日付のScientific Reports誌に、Muse細胞を投与することで運動機能改善に治療効果があることを公表した。(Sci Rep. 2020 Oct 13;10(1):17102)
<目次>
1 幹細胞とは
2 ES細胞とは
3 iPS細胞とは
4 Muse細胞とは
5 Muse細胞の運動機能などにおいて治療効果
6 おわりに

 

1 幹細胞とは

「多分化能」と「自己複製能」を持つ細胞を幹細胞という。簡単に表現すると、
・多分化能=体のいろんな部位に変身できる能力
・自己複製能=無制限に自分を増やすことのできる能力
再生医療では幹細胞を投与することで傷ついた体の部分を修復したり、低下した機能を改善することができる
ES細胞もiPS細胞、そしてMuse細胞も幹細胞の仲間であり、再生医療には欠かせない重要な細胞。


2 ES細胞とは

「受精卵=将来赤ちゃんになる細胞」から作られる。
メリット:ほぼ無限に増えることができ、体のどんな部分にでも変身できる。
デメリット:倫理面に問題があり、本来は人として誕生することができた命から採取された細胞なので、医療に用いるとはいえ命を扱うことに問題が残る。また、拒絶反応が起こる可能性や癌化の可能性が0ではない。

3 iPS細胞とは

ES細胞と同じ性質を持つ人工的に作られた細胞。ES細胞と異なり、受精卵から採取されるものではなく線維芽細胞という誰もが持っている細胞から作ることができる。
メリット:倫理面での問題がなく、患者自身の細胞から作ることができるので拒絶反応が起こりにくい。
デメリット:人工的に改良して作られた細胞のため、癌化の可能性が0ではないこと。現在解決策が練られている。



4 Muse細胞とは

生体に内在する非腫瘍性の多能性幹細胞であり、ほぼすべての組織の結合組織や骨髄、末梢血に存在している。
メリット:iPS細胞同様に倫理面での問題がなく、患者自身の細胞から作ることができるので拒絶反応が起こりにくい。
デメリット:移植細胞の低いホーミング率や障害組織におけるストレスフルな微小環境下での移植細胞の生存率の低さ,機能的な細胞への分化効率の低さなど,解決すべき問題が残されている。

まだ解決するべき問題は残されているものの、今回治療に使われたMuse細胞は、ES細胞、iPS細胞に続く“第3の万能細胞”として注目を集めている。先にも記述したように、「Muse細胞」は骨髄、末梢血、あらゆる臓器の結合組織に存在する腫瘍性を持たない生体内に存在する多能性幹細胞。心筋梗塞、脳梗塞、腎不全、肝障害、皮膚損傷などの傷害モデルで、分化誘導せずに静脈内投与することで、傷害部位へ選択的に遊走・生着し、組織を構成する細胞へと自発的に分化することで組織を修復し、日本の患者約1万人の難病『ALS』に治療の可能性が見えてきました。

Muse細胞研究の現状と展望
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/145/6/145_299/_pdf

5 Muse細胞の運動機能などにおいて治療効果

岡山大学の山下徹准教授らが、新たな研究の成果として発表したのが、
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルマウスにヒト骨髄由来Muse細胞を経静脈的に投与することで、運動機能などにおいて治療効果があること。
・静脈投与されたMuse細胞はALSマウスの脊髄に遊走・生着し、脊髄を構成する細胞に分化すること。
・ドナーMuse細胞製剤(CL2020)の点滴による治験が心筋梗塞、脳梗塞、脊髄損傷、表皮水疱症、新生児低酸素虚血脳症で行われており、いずれもHLA適合や免疫抑制剤は不要であること。

岡山大学の山下准教授らは、ALSを発症したマウスによる実験を行った。3匹を試験装置で走らせ、ある程度の負荷をかけ、何も治療していないマウスは、症状が進行し、運動機能が低下しているため落下したが、残りの2匹のうち、1匹には他の治療に使われてきた骨髄の中の細胞、そして、もう1匹にはMuse細胞を投与。最後までスムーズな動きで残ったのは、Muse細胞を投与されたマウスであった。

健康な場合、脳の命令は運動神経細胞を通じて筋肉へと伝わるがALSでは、運動神経が損傷し命令が伝わらなくなるため、筋肉は次第に動かなくなり痩せていく。この傷ついた細胞から出るのが“SOSシグナル”で、静脈から投与されたMuse細胞は、血管の中でこのシグナルをキャッチし損傷のある場所へ向かい細胞を修復、あるいは、自ら置き換わることが期待されている。


6 おわりに

 

先にも書いたように、ALSは脳脊髄にある運動神経細胞が減少し続けて運動麻痺が進行する神経難病であり、根本的治療がないのが現状。今回、ヒト骨髄由来Muse細胞を経静脈的に反復投与すると、マウス脊髄(特にこのモデルで傷害の強い腰髄)に遊走し、脊髄を構成する細胞に分化し、運動神経細胞脱落や運動機能低下を抑制する治療効果を確認することができた。
この研究がさらに進み、進行する運動麻痺や呼吸筋麻痺に苦しむALS患者を救う新たな治療法になることを願っている。

岡山大学プレスリリース
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id777.html

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