大阪大学が肉の常識を覆す技術「3Dプリント金太郎飴技術」を発表。培養した牛肉の筋繊維と脂肪、血管を線維組織ファイバーとして細長く作り、和牛肉の組織構造を基にそれらを束ねて、3D印刷で和牛のステーキ肉を作ったという。この研究は、大阪大学大学院工学研究科の松崎教授を筆頭とした研究員や学生と、凸版印刷や日本ハム、リコーといった企業の研究部門の人たちが関わり、この手法が生まれた。本研究成果は、2021年8月24日(火)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載された。
①和牛肉の組織構造を設計図に、3Dプリントで筋・脂肪・血管の線維組織ファイバーを作製して束ねることで、複雑な和牛肉の構造をテーラーメイドで作製できる技術を開発
②和牛の美しい“サシ”などさらに複雑な肉の構造の再現や、脂肪や筋成分量の制御による微妙な味・食感の調節も可能
これまでは筋線維のみで制作していたため、ミンチ肉のようなものしかできなかった。しかし筋・脂肪・血管などの線維組織ファイバーの位置や分量を調節することで、赤身の間に脂肪を挟んでサシを作り出し、微妙な味や食感をつくることで和牛の持つ柔らかさと歯ごたえ、美味しさを自由にカスタマイズ可能になりより自然に近い肉が印刷できた。
FAO(国連食糧農業機関)は2009年9月、「世界の人口が91億人に達すると予測されている2050年までに、世界全体の食肉生産を現在比74%増産しなければ、タンパク質クライシスに陥る可能性がある」との試算を発表している。
世界の人口は2050年には、97億人に達すると予想され、温暖化や世界人口増加などで食料生産が逼迫したり、肉を中心としたタンパク質の需要と供給のバランスが崩れる可能性が高い。
また牛肉1㎏の生産には10㎏の飼料用穀物が必要とされ、出荷時の成牛の体重は平均650㎏に換算すると、成牛1頭を育てるために6.5tの飼料用穀物が必要となる。人口増加に対応するためには食肉生産量を2050年までに2億t増産しなくてはならず、それに伴って飼料用穀物生産量を20億t増産する必要がある。今後、食用と飼料用合わせて30億tの増産が必要といわれているが、農業関係識者の間では「2005―2050年の間を合計しても農地面積は1桁%程度しか拡大できない」という状況であり、「現行の農業形態をタンパク質の生産基盤とする限り、2050年のタンパク質クライシスを解決できない」との危機感が現実味を増している。
牛肉生産のもう一つの問題が「牛の胃で発生し、ゲップとして出されるメタン」で、「牛が環境に悪い」と言われる原因にもなっている。「メタン」は二酸化炭素と比べて25倍の温室効果があり、世界中の牛などの胃腸から排出されるメタンの量は、年間20億トン(二酸化炭素換算)ともいわれている。
最近スーパーやコンビニで「大豆ミート」を使ったハンバーグが目につきます。タンパク質クライシスを起こさないために大豆やエンドウ豆由来の植物肉を開発し食感を似せてつくられたもの。しっかりした味付けの食品では余り違和感がないことやヘルシー志向も手伝って徐々に浸透してきている。しかし肉本来の感触や味の再現は難しいため、培養牛肉による肉本来の再現が求められていた。培養肉は牛の成長に比べ極めて短時間で生産することができる。今後、細胞の培養プロセスも含めた自動装置を開発できれば、場所を問わず、より持続可能な培養肉の作製が可能となり、SDGsへの大きな貢献が期待されている。
基本的な培養細胞がそろえば「3Dプリント金太郎飴技術」で豚肉や鶏肉、その他の肉でも生産できる可能性が高い。また場所も選ばないことも特徴で、宇宙や月面、その他の惑星でも作れるのではないか。そんな想いにさせてくれる素晴らしい技術であり、この技術が安価に誰でも使える時代が来ることを願っている。
参考
【大阪大学HP】3Dプリントで和牛の“サシ”まで再現可能に!
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210824_4
ステーキ肉は印刷する時代へ! 大阪大学が和牛のサシまで3D印刷を可能にする
https://news.yahoo.co.jp/articles/897610429f824af21c0f9001e3acf63f05c1d8c1
【MeatTech】本格化する人工肉ビジネス 日本の国家プロジェクトがMeatTechで安定的・持続可能な人工肉を目指す理由 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 所長・教授 清水達也
https://mimir-inc.biz/media/expert/meattech202008/
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