気候変動危機の対策に世界が取組始めている。国連気候変動枠組み条約第２６回締約国会議（ＣＯＰ２６）で大きな議論となったのが「石炭火力発電」だ。日本は石炭火力発電所を稼働させているため「化石賞」というありがたくないレッテルを貼られているが、本当に日本はそんなに大量の二酸化炭素を排出しているのだろうか。
EDMC／エネルギー・経済統計要覧2021年版の資料によると、2018年世界の二酸化炭素総排出量約335億トン。そのうち３.２％に当たる10億810万トンを排出しており、排出量は第5位となっている。一番排出量が多い国は中国で、全体の28.4％に当たる95億280万トン、第2位はアメリカで、14.7％に当たる49億210万トン。第3位はインドで、6.9％に当たる23億80万トン。この3ヶ国で温室効果ガス排出量が全体の50％をしめている。
石炭火力は天然ガス火力発電の約２倍の二酸化炭素（ＣＯ２）を排出するとされるところから、ＣＯＰ２６の共同声明では、排出削減対策が講じられていない石炭火力からの脱却を共通ビジョンに掲げ、石炭火力発電廃止に４６カ国が賛同した。しかし採択の直前に「脱石炭」の表現をめぐってインドなどが反発し、「段階的な廃止 (Phase out)」から「段階的な削減 (Phase down)」に表現が弱められた。
共同声明がこのように変わったのは、それぞれの国の状況がヨーロッパと大きく違っているからだ。
ヨーロッパは風力や太陽光などの自然エネルギーに比較的恵まれており、2019年時点でドイツでは42％、スペインは37％、イタリアが35％を達成しており、EU全体でも電力自給率は35％に上っている。（フランスは電力を原子力発電でまかなうため自然エネルギーが20％）これを2030年を目標にスペインは37％→74％、ドイツ42％→65％、ＥＵ35％→57％に引き上げる計画だ。
しかし日本は、地震や台風などの自然災害が多く、原子力発電に頼れないため、自ずと化石燃料を使わざるを得ず、2019年時点では18％、これを2030年では22～24％にする計画だ。
もしこのまま日本の車が全てＥＶ化してしまうと、さらに化石燃料を使うこととなり、ＣＯ２の排出量が増加してしまう。それを防ぐ為にもトヨタはＥＶとともにハイブリッド車、燃料電池車、水素自動車の開発を推し進めている。
電源開発（Ｊパワー）では、老朽化した石炭火力発電所の閉鎖とともに、石炭とバイオマスやアンモニアを混焼させ発電効率の向上と低炭素化を図っている。
2020年6月に稼働した最新鋭の竹原火力発電所（広島県）新１号機は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱効率が世界最高水準の48％！
この石炭火力発電には蒸気タービンの圧力や温度を超々臨界圧という極限まで上昇させたこととともに、石炭を効率よく燃焼させるため、石炭を微粒子（100μm）まで粉砕するミル（微粉炭器）で粉状にする高い日本独自の技術が使われている。
粉末にすると燃えにくい石炭も爆発的に燃焼する。これを粉じん爆発現象といい、小麦粉などでも同じ現象が見られる。
さらに石炭が燃焼するとSOx（硫黄酸化物）やNOx（窒素酸化物）、ばいじん（すすや燃えカス）が発生するが、煤煙浄化システムにより大気汚染物質の90％以上を除去している。そのため日本の発電所の煙突から出るものは、浄化システムで使った蒸気がほとんどといわれている。
このほかにも、２００２年から研究している石炭のガス化の取組では、石炭を蒸し焼きにして水素を精製し、取り出した水素で燃料電池動かす実証実験を2022年度から始める予定だ。そしてその設備を松島火力発電所（長崎県）２号機に設置し利用を予定している。
人の生活で使用する全てのエネルギーを自然でまかなえるのが理想だ。太陽光発電パネルが安価で製造できＣＯ２の発生がないのが理想だが、現状では製造段階で大量のＣＯ２の発生と電力が使われている。
化石燃料が使われていることだけを取り上げて問題にするのではなく、製造から使用・廃棄に至るまでのトータルでＣＯ２の排出削減を考えることも大切なのではないだろうか。
参考
世界の二酸化炭素排出量（2018年）【JCCCA】
https://www.jccca.org/download/13327
データで見る温室効果ガス排出量（日本）【JCCCA】
https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge05
温室効果ガス排出量【環境省】
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg.html
温室効果ガスインベントリ【国立環境研究所】
https://www.nies.go.jp/gio/aboutghg/index.html#c
2019年度（令和元年度）温室効果ガス排出量【環境省】
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/index.html
実はスゴい日本の「石炭火力発電」 発電効率の向上と低炭素化、最高水準の微粒子燃焼方式 識者も「世界が日本頼みになるのでは」の見方
https://news.yahoo.co.jp/articles/a8b82a7552dd003baaafd8cb649d9ea2fa235bb5
もっと知ってほしい石炭火力発電【J－POWER】
https://www.jpower.co.jp/bs/karyoku/sekitan/
英国シャルマ議長の謝罪と涙で閉幕したCOP26〜 何が起き、何が起きなかったのか？
https://www.greenpeace.org/japan/nature/story/2021/11/17/53792/
三菱重工 ミル
https://power.mhi.com/jp/products/boilers/boilers-machinery/pulverizer
石炭のクリーン利用に貢献する粉体・ナノテクノロジー
https://www.jstage.jst.go.jp/article/micromeritics/53/0/53_2010010/_pdf/-char/ja
欧州各国・米国諸州の2030年自然エネルギー電力導入目標【自然エネルギー財団】
https://www.renewable-ei.org/activities/statistics/trends/20210115.php
コメント