日本はいまだに石油や石炭などの化石燃料で発電しており、燃料のほとんどを輸入に頼っている。政府も再生可能エネルギーに本腰を入れ始めており、SDGs(持続可能な開発目標)の「ゴール7」に向け、化石燃料を利用した発電構造転換に取り組んでいる。
従来、設置困難な場所での高効率太陽光発電ができる「ペロブスカイト太陽電池」について考えてみた。
<目次>
1 太陽光発電の現状
2 主な太陽電池の種類
3 ペロブスカイト太陽電池のメリットとデメリット
4 今後の展望
5 NEDOと研究
SDGsへの取り組みから企業も太陽光発電への需要が高まっている。米国の市場調査会社ジオンマーケットリサーチによると、世界全体のソーラーパネルの市場規模は2016年時点の308億ドル(約3兆3880億円)から年平均成長率10.9%のペースで成長し、2022年までに573億ドル(約6兆3030億円)に達するとみられている。しかし太陽光発電の発電効率は約20%程度にとどまっている。これまで40年以上にわたり太陽光パネルの効率性向上や劣化につながる要因について様々な研究が行われ、270本以上の研究論文が発表されているといわれる。
太陽電池モジュールには、素材等によって大きく5種類に分けられるが、代表的な3種類(シリコン系、化合物系、ペロブスカイト)を示す。
①結晶シリコン太陽電池
シリコン系太陽電池は、日本国内において最も普及している太陽電池モジュールで製造方法により「単結晶」と「多結晶」タイプに分かれる。また、あまり普及はしていませんが「薄膜」タイプも存在している。以前に比べるとかなり製造コストは下がっているが、4KWのソーラーパネルで約130万円以上かかる。またパネルの総重量が250kgもあり、設置においては家の補強が必要となる場合がある。
②CIS(化合物系)太陽電池
CIS太陽電池は、3種類の元素(銅・インジウム・セレン)を組みあわせて作った「化合物半導体」を利用して発電する太陽電池モジュール。シリコン系太陽電池よりも低コストなのが特徴。ソーラーフロンティアが2017年末にCIS系薄膜太陽電池セルで「世界最高の水準の発電効率(変換効率)22.9%」を達成し。しかし材料や製造コストが比較的高い状態が続いている。
③ペロブスカイト太陽電池
次世代の新規太陽電池材料として期待されているのが「ペロブスカイト太陽電池」で、”ペロブスカイト”と呼ばれる結晶構造の材料を用いた新しいタイプの太陽電池であり、「シリコン系太陽電池」や「化合物系太陽電池」にも匹敵する高い変換効率を達成しているため、今後も大きな期待がもたれている。ペロブスカイト自体の厚さは500 nm(ナノメートル)、髪の毛の100分の1程度の厚みしかないため、ラップフィルムのような軽くて曲がるものにも太陽電池をつくることが可能。
・メリット
ペロブスカイト太陽電池は、構造上、発電層を含む厚みが結晶シリコン太陽電池の1/100程度と非常に薄いため、結晶シリコン太陽電池より軽量化できる。また波長800nmまでの可視光を吸収できる性能を持つため、曇りや室内などの低照度下でも発電できる。
製造では、インクジェット塗布法を用いた薄膜作製ができるため、既存の太陽電池よりも低価格になる。さらに、フレキシブルで軽量なため、平面だけでなく、曲面の壁にも設置することが可能。
製造工程では、塗布パターンを自由に変更できる反面、高効率の発電をするためには材料をドット状に塗布・製膜後、塗布面内で均一に結晶化させる必要があり、塗布量・速度を精密に制御するなど、超えるべき課題も残されている。
さらに、ペロブスカイトの膜厚を制御することにより、半透明も可能。大型のインクジェットプリンターを使って窓ガラスの表面に吹き付ける(印刷)することで、窓そのものを太陽電池パネルにできるポテンシャルがある。
・デメリット
ペロブスカイトの表面構造がむき出しの状態で空気中に放置すると劣化しやすいという欠点がある。そのため表面を保護し劣化を抑える材料の研究が必要。
履歴効果と呼ばれる「ヒステリシス現象」が起こることで、光照射下における発電が安定しにくい。
太陽エネルギーを使い、約3000kmを走破する世界最高峰のソーラーカーレースがオーストラリアで開催されていることをご存じですか。その名は「Bridgestone World Solar Challenge(BWSC/ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ)」。シリコン太陽電池パネルを積んで走るので、どうしても車体の形状に制約がでている。しかし、ペロブスカイト太陽電池が実用化できれば、ボディーにインクジェット塗布法で薄膜印刷することで、レーシングカーのような空力に重点を置いたボディにすることができる。また一般車のボディ全体を太陽光発電に応用できれば、駐車するだけで充電ができる夢のエコカーとなる。
いま、発電効率を40%以上に高める技術開発を大学と連携して各社取り組んでいる。まだまだ発電効率が低いため、今後の研究での改善に期待が集まっている。
現状の太陽光発電太陽光発電システムの発電効率(変換効率)について、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、2013年に発表したロードマップ「PV2030+」において、NEDOは太陽光発電システムの発電効率(変換効率)の将来にわたる目標を定め、国も支援を始めている。NEDOは、エネルギーや環境技術の開発を推進する国立研究開発法人で、太陽光発電や風力発電、バイオマス技術、省エネルギー技術などの開発・普及を支援している組織のこと。
資料
NEDOは「太陽光発電開発戦略2020」「再生可能エネルギー技術白書」の策定を行っている。
・太陽光発電開発戦略2020(NEDO PV Challenges 2020)
https://www.nedo.go.jp/library/ZZFF_100037.html
・NEDO再生可能エネルギー技術白書
https://www.nedo.go.jp/library/ne_hakusyo_index.html
参考
・ペロブスカイト太陽電池大面積モジュールで世界最高変換効率16.09%を達成
―従来、設置困難だった場所での高効率太陽光発電が可能に―
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
パナソニック株式会社 2020年1月20日
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101261.html
・次世代太陽電池の最有力候補、ペロブスカイト太陽電池の表面構造評価法を確立 発電効率や耐久性の向上へ道筋
国立大学法人千葉大学 2020年12月9日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000444.000015177.html
・ペロブスカイト太陽電池ミニモジュールで20.7%の変換効率を達成
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 2019年7月5日
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/20190705_segawah01.pdf
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