昨年の秋、住宅街に熊やサル、イノシシが出没し大きな問題になったことを覚えていますか?昔は人と野生動物の境に「里山」が存在し、お互いのエリアを尊重していました。最近は山のすそ野に住宅が建つことで「里山」が消滅し、山に人の手が入らないことで山が荒れ、温暖化で木の実が減少するなど、様々な問題が出てきています。人と野生動物が共存できるように「里山」の復活と利用を考える時期に来ているのではないでしょうか。
<目次>
1 野生動物の街に出現する頻度が増加
2 野生動物が人里に出てくるようになった原因は?
3 考察(①~④)
4 対策についての提案
近年、畑や家の裏庭にイノシシやシカ、猿に熊などが出てきて作物を食い荒らす被害が山に近い場所だけでなく、大都市周辺でも起きています。東京ではサルが出没し住民が自由に歩けなくなる騒ぎとなりました。中国地方でも一般家庭に被害が出たり、外出しにくくなったりしています。
新聞の記事より
〇安芸太田町でクマ目撃情報、30日夕から2件(2020/10/31)
2020年10月30日午後7時25分ごろ、広島県安芸太田町上殿で「柿の木の上にクマがいる」と住民が山県署へ通報した。同署によると成獣とみられる。実を食べるなどして約2時間後に下り、姿が見えなくなったという。
〇山口市中心部にイノシシ 夜の街に悠々「トン走」(2020/10/13)
山口市中心部のパークロードそばに2020年10月12日夜、イノシシ1頭が出没した。付近は県庁や美術館、博物館などが立ち並ぶ市街地。駆け付けた山口署員が後を追ったが、イノシシは悠々と夜の街に消え去った。
農水省農村振興局がこのほどまとめた鳥獣被害の現状と対策によると、平成30年度の野生鳥獣による農作物の被害額は158億円に上り、そのうち約7割をシカ、イノシシ、サルによる被害が占め、被害面積はシカによるものがおよそ4分の3を占めているそうです。
農協新聞より
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2020/09/200928-46699.php
この図はイノシシの目撃場所の地図です。赤が濃くなるほど目撃例が多くなるのですが、都市部や島でも多く目撃されていることが分かります。
原因と考えられることを4つにまとめてみました。
① 人が野生動物がすむ裏山(以下、里山)を利用しなくなった。
② 建築材として杉の植林が野生動物を飢えさせた。
③ ハンターが減少し、野生動物の適切な頭数管理が難しくなった。
④ 安易に餌を与えたため(餌付け)人間を怖がらなくなった。
① 昔は、ご飯や風呂を炊くための薪をとったり、刈った芝を牛に与えたり、採集した山菜を食料にしたりしていました。また、田畑では牛を使って土を耕して米や野菜を作り、牛の糞を肥料にしていました。理想的な自然循環の自給自足生活が行われるなど、里山は人の生活に欠かせない資源の宝庫でした。しかし人口減少と高齢化が進んだことで里山が荒廃し、過疎化や耕作放棄地の増加により、山林の管理が行き届かなくなり、比較的明確だった人と野生動物とのテリトリーが曖昧になっています。
農水省によると、耕作放棄地の面積は昭和60年までは約13万ヘクタールと横ばいで推移していたのが、平成17年には約38.6万ヘクタールと20年で3倍にまで拡大。畑や果樹は実がなったまま放置されたことで、野生動物にとっては食べ放題で栄養もたっぷり。さらに荒れた藪(やぶ)は身を隠すのに絶好の場所となり、人里までラクに下りることができるようになったことが考えられます。
② 登山をする方から今年もドングリなどの実が余り出来ていないことを聞きます。年によって変動はあるのですが、植林により杉やヒノキばかり植えられ、動物の食料となる涵養林(自然林)が減少しています。
③ 野生動物を一定の個体数に保つべきだったのに、保護することが優先され、狩猟者人口の減少もあり、山林の野生動物収容能力を超えてしまっている可能性が考えられます。全国組織「大日本猟友会」では、散弾銃などを扱える狩猟の第1種免許を持った会員数が一時、40万人を超えていたのが平成21年度で約9万9000人に激減したため、野生動物に人間のテリトリーを示すことが出来なくなり、野生動物の街への進出に拍車がかかった物と考えられる。
さらに問題なのがすでに街に住み着いている野生動物です。自動車にはねられているアライグマやテンの姿を見かけますが、成長すると凶暴になり、畑や家庭菜園を荒らしたり、民家の天井裏に住み着き糞尿(ふんにょう)からわいたノミやダニで住民が皮膚病になった例も報告されています。
ただ環境省のレッドデータブックでは、「絶滅のおそれのある地域個体群」として中国四国地方や紀伊半島などのツキノワグマは保護すべき対象となっています。一方で日本全体の森林面積は増加傾向にあり、むしろ山林に手が入っていないため、荒廃して野生動物の王国になってしまっているのが現状です。
④ 珍しい動物がいたらついつい餌を与えてしまったことはありませんか?野生動物は餌を探すため人里に来ています。彼らは生きるために来ているので味をしめたら何度でも来ます。
例えば小さい可愛い動物に、買い物袋やコンビニ袋から食べ物を出して食べさせたとします。野生動物は「買い物袋やコンビニ袋には食べ物がある」事を理解し「袋を持っている」=「食べ物がある」と考え、袋を持っている人を狙ってきます。何度も成功すると「山で餌を探すより、美味しくて簡単に食べられる」と思い、ますます人里に出没します。さらにその成功体験は子孫に引き継がれます。
① 荒れてジャングル化した里山をもう一度人の手で切り開き、野生動物が身を隠せる藪(やぶ)の撤去と、バイオマス資源生産など里山で利益を生みながら人を集めるなど、資源としての山林の活用を進める。またテレワークの導入で、大都会から地方へ人が流入しやすくなっています。これを機に地方自治体が魅力的な政策(オンラインの設備を格安で設置。「里山」近くに格安で人が住める住宅供給など)を行うことで、会社も人も移住しやすくする事業を推進して欲しい。
② 杉やヒノキを建築材料として伐採し活用するとともに、コストがかさむ山林には多様な種類の木を植林し、野生動物が食べることが出来るようにする。(野生動物を追い返すのでは無く、人間のエリアに出てこなくても良いようにする方がコストもかからない)
③ 主な対策は「捕獲」と「処分」。特に生態系に深刻な被害を及ぼしているシカやイノシシなどの野生鳥獣は10年後の「半減」が目指され、捕獲強化に向け国がバックアップして専門人材の育成を急いでいるようです。
④ 絶対に野生動物には餌をやらないこと。一度人間の美味しい食べ物の味を味わったら繰り返し欲しくなります。どんなに可愛い動物でも成獣になったら大きくなり怖いもの。安易に餌付けをしないことが動物のためにもなります。
野生動物を食材として捕獲し料理に使う「ジビエ」が有りますが、捕獲した鳥獣の処分が出来る施設はほとんどありません。焼却できても大型獣を焼却施設まで運び解体する負担が大きいのが現状です。
また平成30年度の鳥獣による農作物被害は、被害金額が約158億円で前年度に比べ約6億円減少(対前年4%減)、被害面積は約5万2千haで前年度に比べ約1千ha減少(対前年3%減)、しかし被害量が約49万6千tで前年に比べ約2万1千t増加(対前年4%増)しています。(令和元年10月16日農林水産省)
野生動物を捕獲→処理加工→供給→消費のサイクルを上手に回したジビエ需要の開拓・創出が出来れば産業となり、雇用の創出と野生動物の頭数管理および農作物被害の抑制といった一石三鳥が果たせるのでは無いでしょうか。
みなさんはどうお考えでしょうか。
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