天然には存在せず毒性が高い物質「PCB」が人への被害だけでなく深海も汚染している

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水深1万mを超える西太平洋の海溝や相模湾・初島沖の水深約900メートルの深海底底に棲む貝や端脚類(たんきゃくるい)から驚くべき高濃度のPCBが検出されたという。このような超深海にまで海洋汚染が確実に進んでいる。多くは海洋を漂うマイクロプラスチックにPCBが吸着・濃縮され、海生生物が間違って食べ、食物連鎖を経て1万mの海溝まで到達した可能性が高い。
世界中で魚が食べられており、最終的には人に蓄積し、ホルモン異常、内臓障害、ガンなどを発症する原因となる。

「PCB」とは

「PCB」は、「ポリ塩化ビフェニル」または「ポリクロロビフェニル」「ポリ臭化ジフェニルエーテル」などの総称で、209種の異性体が存在する。熱に対して安定性・電気絶縁性が高く、耐薬品性に優れているため、加熱や冷却用熱媒体として多くの変圧器やコンデンサに用いられていた。さらに可塑剤、塗料、ノンカーボン紙の溶剤など、非常に幅広い分野に用いられたが、1954年(昭和29年)に鐘淵化学工業高砂事業所等で製造した食用油に「PCB」が混入し、1968年(昭和43年)「カネミ油症事件」が起きた。その毒性の高さから1972年(昭和47年)に生産・使用の中止等の行政指導があり、1975年(昭和50年)に製造および輸入が原則禁止となった。



しかし1975年(昭和50年)以前に作られたものの対策はとられておらず、2000年頃から、世界でPCBを含む電機、電気製品、老朽化した蛍光灯安定器のコンデンサから「PCB」を含む絶縁油が漏れる事故が相次ぎ、社会問題となった。
現在でもその製品が残っており、2021年12月24日には北陸電力が人の健康や生活環境への被害が生じる恐れがある「PCB」が含まれた廃棄物を一般廃棄物として処理したと発表し、問題となっている。北陸電力はこの中で、変圧器の油試験や取り替えに使う布や手袋などに「PCB」が付着した物を、一般廃棄物として誤って処理しており、今後は「PCB」が付着した廃棄物をリスト化するとともに管理の厳格化を行い、付着したものにはシールを貼って分かるようにするなど、再発防止に努めるとしている。

「PCB」の毒性

PCBは脂肪に溶けやすいことから、人体や海洋生物の体内に取り込まれやすく、徐々に蓄積することで様々な症状を引き起こすことが知られている。「カネミ油症事件」では、ライスオイル(米ぬか油)中に含まれたPCBを摂取したことで、吹出物や色素沈着、目やになどの皮膚症状の他、全身倦怠感、しびれ感、食欲不振などの症状があらわれた。こうした症状が改善するには長い時間がかかり、46年経った今なお症状が続いている方々がおられる。

深海に蓄積する「PCB」

天然には存在しない有害物質「PCB」による深海の汚染が予想以上に広がっている。餌を食べずに生きる端脚類からも検出され、陸から遠く離れた海域でも見つかった。
2017年2月、英国アバディーン大学のジェイミソン博士のグループが、西太平洋で最も深い1万mを超える海溝底に棲む端脚類(たんきゃくるい)(ヨコエビ)の体内から、きわめて高濃度のPCBが見つかった。ヨコエビの乾燥検体に含まれていた主要な7つのPCB総量は、マリアナ海溝の6匹について147〜905ng/g(平均値:382 ng/g)、またケルマディック海溝の6匹について18〜43 ng/g(平均値:25 ng/g)であった。



また2019年8~9月、海洋研究開発機構の研究チームは有害物質による汚染状況を調べるため、有人潜水調査船「しんかい6500」で相模湾・初島沖の水深約900メートルの深海底を調査した。この周辺では、体長10センチほどの二枚貝が密集し暮らしているが餌をほとんどとらず、エラにすむ細菌が作る有機物を栄養にして生きているシロウリガイの仲間を調査したところ、貝に含まれる脂肪分1グラムあたり平均24ng/gのPCBが検出されたという。
工業地帯からの廃液に汚染された沿岸堆積物のPCB濃度(乾燥試料について)の最高値は米国(グアム)で314 ng/g、日本で240 ng/g、そしてオーストラリアで160 ng/g。マリアナ海溝で得られた最大値905 ng/gは、中国で最も汚染レベルの高い河川の一つ、遼河の水を引いた水田に棲む蟹のPCB濃度より50倍も高いという。

「PCB」を蓄積させないために必要なことは

プラスチックはPCBなどの物質を吸着する性質があり、東京農工大学の高田秀重教授の研究によれば、西太平洋の日本、フィリピン、オーストラリアなどの沿岸に漂着するマイクロプラスチックには、数百ng/gものPCBが付着しているという。プラスチックごみが外洋域を長期間漂ううちに、表面にある凹凸にPCBを集めてしまう現象が起きる。それを海生生物が餌と間違って食べ、消化管の中で溶離し脂肪の中にたまっていく。食物連鎖が進むほど、その濃縮度は桁違いに増加していく。
超深海のヨコエビが海洋の上層での食物連鎖を経て、PCBを濃縮した生物の脂質が海溝底まで沈降し食べた可能性がある。今後の研究でPCBの炭素同位体比などから、PCBの出所が推定できるかもしれない。



「PCB」の問題は過去の話や海の向こうの話ではない。現在も海底に溜まり、多くの生物に蓄積されている。一度体内に入ったら脂肪に蓄積されるため、体の外に排出されにくく、妊娠時には胎盤を経由して母親から胎児へ移行するといわれている。
まずは一人一人がプラスチックゴミをしっかり分別して適切に処理することが、自らのPCB汚染を防ぐことに繋がる。

参考
健康被害の恐れも…『PCB』付着したゴミを誤って“一般廃棄物”として処理 北陸電力の発電所等
https://news.yahoo.co.jp/articles/7f14c44316b47dcfcd792855ffb2b6baa7273bf5
深海に及ぶPCB汚染 二枚貝被害「もう一つの生態系」に影響も
https://mainichi.jp/articles/20211225/k00/00m/040/135000c
超深海まで拡がっていたPOPs汚染
https://www.spf.org/opri/newsletter/424_2.html
wiki ポリ塩化ビフェニル
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AA%E5%A1%A9%E5%8C%96%E3%83%93%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8B%E3%83%AB
PCBによる環境汚染と子どもの健康
https://www.env.go.jp/chemi/end/endocrine/5column/c-24.html
PCB廃棄物とは?
https://www.gunma-sanpai.jp/gp15/025.htm
PCBとはどんなものですか?
https://www.jesconet.co.jp/business/PCB/pcb_03.html
PCBは何に使われていたのでしょうか?
https://www.jesconet.co.jp/business/PCB/pcb_04.html

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