自然界の驚異 プラスチックを生分解し栄養源とする細菌が爆発的に増殖している

テクノロジー

世界のプラスチック生産は1960年代~2019年で約20倍の4億トン/年に増加し、20年後は現在の2倍となる予測がでている。そのため世界各国でプラスチックの排出削減の取組が行われているが、そんな中、世界中の海や土壌に生息している微生物が、プラスチックを食べられるように進化しているという驚きの研究結果が発表された。

生分解されないプラスチックがほとんど





これまでプラスチックは分解するためには長い期間がかかり、ほとんど分解されることなくマイクロプラスチックとして堆積していくと考えられていた。そのため企業・政府・環境団体・消費者の協力によって問題に対処する必要があり、コンビニでのレジ袋有料化による削減やペットボトルなどのリサイクルへと繋がったが、全世界でリサイクルされているプラスチックは10%弱に過ぎず、約80%が埋め立てや自然界(海洋等)へ投棄されているのが現状であり、プラスチック汚染はエベレストの山頂から深海にまで、地球上のあらゆる場所に及んでいる。

驚異的な自然の環境適応力

この研究は、スウェーデン・チャルマース工科大学でシステム生物学について研究するAleksej Zelezniak教授らの研究チームによって行われたもので、研究チームは、ゴミ捨て場などで存在が確認されている「プラスチック分解バクテリア」95種のデータをまとめ、次に同様のDNAサンプルを持つバクテリアの存在を探すという方法で調査をおこなった。

水深が異なる67か所の海洋地域と、世界38カ国・11地域にある169カ所の土壌の合計236カ所からサンプルを採取し結果を公表。

①海洋67カ所のサンプル--約1万2000種
②169カ所の土壌サンプルからは約1万8000種
これらのDNAサンプルから10種類のプラスチックを分解する3万種もの酵素が見つかった。

研究者らは見つかった酵素の数やタイプが、採取された地域のプラスチック汚染の規模や種類と一致していることも明らかにしており、「プラスチック汚染が世界中の微生物生態系に与える影響の重大さを示す証拠である」と語った。



さらに海洋よりも土壌から多くの酵素が発見された理由については、「土壌には海洋よりも、ポリ塩化ビニルの可塑剤として多く使われるフタル酸エステルが多く含まれているために、これらをターゲットにした酵素が多い」と考えており、新しい酵素の60%近くが既知の分類に適合しなかったことから、「バクテリアが未知の酵素を使ってプラスチックを分解している」とも話している。

初めて見つかったのは日本のゴミ捨て場

プラスチックを食べるバクテリアが初めて見つかったのは、2016年の堺市内のペットボトルの処理工場で、京都工芸繊維大の小田耕平教授(現・名誉教授)らが見つけ、発見場所にちなんで「イデオネラ・サカイエンシス」と名付けられた。

慶応大に在籍していた吉田昭介さん(現・奈良先端科学技術大学院大特任准教授)らの研究で、

①特殊な2種類の酵素を出す
②ペットボトルなどの素材として利用されているプラスチックの一種「ポリエチレンテレフタレート(PET)」を分解し、栄養源としている
③厚さ0.2ミリのPETを、約1カ月で二酸化炭素と水にまで分解する

というもので、ゲノム解析の結果、PET 加水分解酵素、MHET 加水分解酵素と名付けられた2種類の酵素を使って、PET をテレフタル酸とエチレングリコールに加水分解し、これらを炭素源として生育している。残念なことにこのバクテリアの生育は非常に遅く、親指の爪の大きさの PET 片を分解するのに約6週間かかる。PET 分解に関わる遺伝子が同定されたことで、今後これらの酵素を利用した新しいリサイクル法の可能性がみえてきた。



2016年に研究成果を発表すると、世界中が驚愕し一気に研究が始まる。バクテリアがどのように分解しているかを研究すれば、PETのリサイクルがより安く、簡単にできると期待され、さらにプラごみ問題の解決にもつながる可能性もあると繊維会社など世界の大手企業から問い合わせが殺到したという。

微小なプラスチック片を海底に沈める微生物

2014年には微生物は、プラスチックを「食べる」だけでなく、微小なプラスチック片を海底に沈めることで、海面を漂う海のごみを減らす助けになっている可能性があるとの研究論文が19日、米オンライン科学誌プロスワン(PLOS ONE)に掲載された。論文を発表した豪ウエスタンオーストラリア大学(University of Western Australia、UWA)の海洋学者チームによると、プラスチックに住む微生物は、世界中の海を浮遊している数百万トンのプラスチック片を生物分解しているように思われるという。



海洋学者のジュリア・ライサー氏によると、マイクロプラスチックを常食とする微生物(微小な藻類の珪藻)は、このマイクロプラスチック片を、海面を移動するための「ボート」として利用するとともに、珪藻の数が増えるにつれて珪藻の殻(二酸化ケイ素)の重みで海底に沈ませ堆積させているという。これにより海中の生物が間違ってプラスチックを食べることを減少させることにも繋がっていると説明し、「この微生物の行動により、海面を漂うプラスチックの総量が、科学者らが予測した速さで増大してはいない理由を説明できるかもしれない」と付け加えた。

おわりに

2020年には仏カルビオス社によってペットボトルを数時間で分解する変異型酵素が生み出され、ドイツの科学者らは、通常埋立地に捨てられる、有害なポリウレタンを餌にする細菌も発見している。Zelezniak教授は「次のステップは、研究施設で有望な酵素の候補をテストして、その特性とプラスチック分解速度を綿密に調査することです。そこから、特定のポリマーを分解することができるバクテリア群を作り出すことができると考えています」と述べている。
自然がいかに対応しようと、まず我々がプラスチックを製造せず、捨てない工夫をする必要があろう。

参考
世界中の微生物がプラスチックを食べられるよう進化している
https://news.yahoo.co.jp/articles/6c42388cb3f0c722b8e5f2a4b277d2557163dad4
世界中の微生物がプラスチックを分解するように進化しつつあるという報告
https://gigazine.net/news/20211215-bugs-evolving-eat-plastic/
Plastic-Degrading Potential across the Global Microbiome Correlates with Recent Pollution Trends | mBio
https://journals.asm.org/doi/10.1128/mBio.02155-21
Bugs across globe are evolving to eat plastic, study finds | Plastics | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2021/dec/14/bugs-across-globe-are-evolving-to-eat-plastic-study-finds
世界中の微生物が「プラスチック」を食べられるよう進化している
https://courrier.jp/cj/271577/?utm_source=newspicks&utm_campaign=271577
プラスチックを分解する細菌(NL56)
https://www.kazusa.or.jp/dna/worlds_dna_research/research-17/
プラスチック食べる細菌 世界が注目
https://www.asagaku.com/chugaku/newswatcher/16129.html
プラスチック食べる微生物、海のごみを沈める助けに 豪研究
https://www.afpbb.com/articles/-/3018256

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