日常生活で3階以上の階段を利用して鍛えている人は、心房細動リスクが低下し心臓の動きが半分に落ちても助かる可能性が高くなる

健康

日常生活の中で3階以上の階まで階段で上る機会が多い人は、心房細動にかかるリスクが約3割低下することを、国立循環器病研究センター検診部の小久保喜弘氏らの研究チームが解明した。心房細動を発症すると死亡や寝たきり、脳梗塞の原因にもなり、いかに予防するかが重要となっている。この研究は2022年3月4日、日本衛生学会の英文誌「Environmental Health and Preventive Medicine」に公開された。


吹田研究参加の都市部一般住民6,575人対象に調査・研究

これまでの研究で、身体活動量が多いと循環器病やがんなどの罹患率や死亡率が低いことが疫学研究で示されており、家事や仕事の自動化、交通手段の発達により身体活動量が低下してきた現代社会においても、健康障害を引き起こさない程度の「適度な」運動を実施が推奨されている。



今回の研究では、日常生活の中の簡便な身体活動の指標として階段の利用率を想定し、階段の利用が多いと心房細動の予防につながるかどうかを検討した。吹田研究参加者の30~84歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に心房細動の既往歴のない6,575人(男性3,090人、女性3,485人)を対象に、心房細動の新規罹患を追跡。その結果、平均14.7年の追跡期間中に295名が心房細動と新たに診断されたという。

心房細動とは

心臓にある「心房」に起こる不整脈の一種で、心房が細かく震えることで血液が滞留して心房内に血栓(血の塊)ができる。その血栓が血流に乗って脳の血管を詰まらせると脳梗塞を引き起こす。このタイプの脳梗塞を「心原性脳塞栓(そくせん)症」と呼び、その死亡率は約12%といわれている。また、約40%に重い後遺症が残るともいわれている。

日本における脳卒中の死亡者数・死亡率

脳出血や脳梗塞のような脳血管疾患は、日本人の死因第3位にランクインしており、厚生労働省が平成30年に公表したデータによると、2017年度の脳卒中の患者数は約112万人のうち、約16%にあたる約18万人は20~64歳。



30代では1,000人程度が発症し、年齢が上がるにつれて増加し、60代では7万人程度になる。さらに脳卒中は介護が必要となる原因になりやすく、40~64歳で介護が必要となる人のうち、51.1%は脳卒中が原因といわれている。

「日頃から階段利用」で心房細動リスクが3割低下

研究では、「3階まで昇るときに階段をどのくらいの割合で利用するか」という質問において、2割未満、2~3割、4~5割、6~7割、8割以上の5択で参加者が回答。階段の利用率が2割未満の群を基準とした場合、6割以上階段を利用する群において心房細動の罹患リスクは、性年齢調整で0.69倍(ハザード比0.69、95%信頼区間0.49~0.96)、多変量調整で0.71倍(ハザード比0.71、95%信頼区間0.50~0.99)、さらに運動習慣の有無による調整で0.69倍(95%信頼区間0.49~0.98)だったという。

今回の研究成果は、

①日ごろ3階程度まで上るときに階段を6割以上利用している群において、心房細動の罹患率が低い
②運動習慣とは別に日ごろから日常生活で階段を利用するように心がけていると、心房細動になりにくい
③日ごろから階段を利用するように心がけている人は、階段以外のところでも身体を動かそうとしている




日本国内の地域住民を対象とした追跡研究で示すもので、「日ごろから階段をどの程度利用しているか」という簡単な指標で心房細動のリスクを予測できたこと煮手応えを感じているという。
これらのことから、日ごろから日常生活で身体を動かすように心がけていると、心房細動になりにくい可能性が考えられるという。
今後は生活習慣要因も加えていくことで、心房細動発症予防のために、どのような生活習慣改善、たとえば食事要因、運動要因、睡眠要因などが必要であるか提示できるようになる可能性がある。
しかし今回の研究における限界もあり、

①自己記入式の問診票であるため、誤分類の可能性が否定できない
②腰痛やヒザ関節症などの整形外科的な疾患を有する方は、階段を避ける傾向がある

などもあり、椅子を使った体操や食事要因や睡眠などに関する要因を検討・改善を加えながら研究を進めるという。

睡眠に関する研究は次の論文を参考にするとよい。

心房細動の予防には日頃から規則正しく適切な長さの睡眠を取ることが肝要である:都市部地域住民を対象とした吹田研究|プレスリリース|広報活動|国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)は、循環器疾患の究明と制圧に取り組むべく病院、研究所、研究開発基盤センター、を柱に予防、診断、治療法の開発、成因、病態の解明から専門技術者の養成まで総合的に推し進めています。
足の筋肉「ふくらはぎ」を鍛えたことで助かった例

2021年4月にジア・メディカルCUP 2021 日本ドラコン選手権大会会場で、心筋梗塞を発症したドラコンプロの山崎泰宏選手は、「ふくらはぎ」の筋肉を鍛えていたことが幸いし、手術により一命をとりとめ、その後ドラコンプロとして現役復帰を果たした。本人も一命をとりとめたのは「ふくらはぎの筋肉が強かったからだったと思います。ふくらはぎを鍛えていなかったら死んでいたかもしれない」と振り返る。



以前から「ふくらはぎ」は『第2の心臓』ともいわれ、歩くことや動かすことで筋肉が伸縮し、それがポンプの役割を果たすことは知られていた。
山崎プロの場合、心筋梗塞のため心臓が発症前の半分の動きしかできなくても、心臓と肺と筋肉が「適度に」鍛えられていたことで、体全体のパフォーマンスが上がり、死を免れたと考えられる。

おわりに

1階から3階に上がるときにエレベーターやエスカレータを利用してしまいがちであるが、階段を利用することを意識して利用するだけで、心房細動リスクが低下し、死亡したり介護が必要となるリスクがかなり低下する。意識を少し変えるだけで健康寿命が延ばせるのであればやってみる価値があるのではないだろうか。

参考
日本における脳卒中の死亡者数・死亡率は? 40~64歳で介護が必要となる方の半数は脳卒中が原因
https://smartdock.jp/contents/symptoms/sy031/
日常生活で3階以上の階段を利用すると心房細動罹患リスクが低下する、国循が確認
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220307-2287289/
日常生活で階段利用が多いと心房細動罹患リスクが低い、吹田研究より-国循
http://www.qlifepro.com/news/20220307/atrial-fibrillation-1.html
【国立循環器病研究センター】心房細動の予防には日頃から規則正しく適切な長さの睡眠を取ることが肝要である:都市部地域住民を対象とした吹田研究
https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_31909/
「日頃から階段利用」で心房細動リスクが3割低下―国循「吹田研究」で明らかに
https://news.yahoo.co.jp/articles/d9f068ddabd532b8759dab200dbe4b371f9c8e10?page=1
心臓の動きが半分に落ちても『ふくらはぎ』を鍛えていれば助かる?【心筋梗塞からのフルスイング】
https://news.yahoo.co.jp/articles/fa8ae7f34e25a03aae4b9211ee47ff00e2b1418d

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