ips細胞が様々な再生医療に活用 心筋シートやミニ腸が動き、脳細胞は学習し自立して動く

テクノロジー

国はips細胞を使った再生医療の実現を目指し、京都大、大阪大、慶応大など12の研究拠点に資金を重点的に配分し、治療法がない病気を中心にips細胞からつくった細胞や組織で治療を行っている。
患者が治療を受けられる医療を行うには、細胞や組織などを治療に使えるまで培養・加工した「再生医療製品」を制作する8企業との連携が重要となる。海外ではips細胞を使って様々な細胞を培養し、なかでも脳オルガノイドは、倫理面とギリギリの研究を行っている。


現在製品化が進んでいるips細胞研究は次の通り
① 加齢黄斑変性 網膜を保守する細胞異常により視力低下を起こす
【開発企業】ヘリオス、大日本住友製薬
② 心不全 心筋の障害などで心臓機能が低下する
【開発企業】武田薬品工業、ハートシード、クオリプス、第一三共
③ 網膜色素変性 光を感じる細胞異常で視力が低下する
【開発企業】大日本住友製薬
④ 脊髄損傷 事故などにより脊髄の神経を損傷する
【開発企業】大日本住友製薬
⑤ パーキンソン病 特定の神経細胞が減少し運動機能などに障害が起きる
【開発企業】大日本住友製薬
⑥ 血液製剤(血小板) 手術や輸血で使用する
【開発企業】メガカリオン
⑦1型糖尿病 膵臓のβ細胞破壊によるインスリン欠乏で起因する糖尿病
【開発企業】武田薬品工業
⑧がん 生体内で異常を起こし勝手に増殖を行う細胞
【開発企業】武田薬品工業、ブライトパス・バイオ
⑨代謝性肝疾患  肝臓の機能に障害が起きる
【開発企業】ヘリオス

元となるiPS細胞は8社のうち7社が、京都大iPS細胞研究所(山中伸弥所長)から提供を受ける計画となっている。他の大手製薬会社は8社の研究状況次第で参入するものと思われる。

突然死起こす心臓病治療薬の研究

日本人の死因2位となっている心臓病。年間20万人が亡くなっている。中でも「不整脈源性右室心筋症」は、心臓の収縮力が低下する病気で、5000人に1人がかかり、30歳前後で発症することが多い。根本的な治療法はなく、不整脈や心不全の薬が効かない場合は心臓移植が必要になる。現在の医療では治療が難しいこの心臓病治療に、ips細胞で作成した心筋細胞シートを使った治療薬開発に大きな期待がかかっている。



現在、大阪大などのチームが病気の状態を再現する心筋細胞を作ることに成功しており、病気の原因となる遺伝子の働きを改善させ、心臓のポンプ機能にかかわる収縮力が向上する治療薬の開発が進む可能性が高まった。チームの肥後修一朗・阪大特任准教授は「様々な化合物を加えて効果を確かめ、新薬候補を見つけたい」と話している。この論文は米科学誌「ステム・セル・リポーツ」に掲載された。

ヒトiPS細胞で作ったミニ腸

大日本印刷株式会社(DNP)は、再生医療や創薬への応用が期待できる、生体の腸に近い特性を示す立体臓器(以下:ミニ腸)を作成し試験販売を実施することを始めた。
ミニ腸はヒトiPS細胞から作られた直径1.5mm以上の球状構造の細胞。DNPでは2017年に、国立成育医療研究センターと共同で試験管内でのミニ腸の創生に世界で初めて成功しており、研究用途で販売される。
このような臓器は人で試すことができない新薬の有効性・安全性を確認したり、怪我や病気で失った臓器などを修復する再生医療での利用・応用を行ったりする場合に有効なもの。



近年は動物実験の禁止・削減を求める機運が高まり、代替技術の発展に力を入れていた。ヒトの細胞や臓器に近い試験管の中で作られるミニチュア臓器(オルガノイド)は、特定保健用食品や機能性表示食品の開発を行なう食品企業でもニーズが高まっている。
印刷会社がミニチュア臓器(オルガノイド)開発に驚く人も多いが、大日本印刷株式会社(DNP)には印刷プロセスで培ってきた微細加工技術や精密塗工技術などを応用・発展させたDNP独自の「薄膜多層パターニング技術」を活用し、ヒトiPS細胞から試験管内でミニ腸を生成する。 これまで蓄積してきた印刷技術があればこそ、ミニ腸作成がなしえたのではないかと考える。

海外で進むips細胞で作成した脳

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームは、ips細胞から幹細胞を作成し、研究室で培養した「ミニ脳」が、ヒトの脳波に似た信号を出していることを発見した。
UCSDの神経科学者Alysson Muotri博士率いる研究チームは、神経ネットワークの形成を明らかにするため、認知をコントロールし、感覚の情報を解釈する脳の領域である脳皮質の組織、脳オルガノイドを作った。オルガノイドは、iPS細胞などの幹細胞から、実験室等で人為的に作られた臓器のことで、神経領域では、大脳、小脳、海馬などが作られている。研究チームは脳オルガノイドを培養しながら微小電極アレイ(MEA)を使って脳神経回路の活動を測定していたところ、4~6カ月経過すると、ミニ脳から同期した信号の活発な発振が検出された。



オーストラリアとイギリスの研究チームが、ペトリ皿の中で培養した人間の脳細胞に卓球ゲームの「PONG」の1人用モードをプレイさせることに成功したと発表した。豆粒サイズの脳オルガノイドから胎児のような脳波が検出されているほか、光に反応する目を発生させることに成功している。
研究チームは、ヒトのiPS細胞から作成された細胞の塊を、多数配置された微小電極の上で脳細胞として培養して脳と機械が相互作用できる「DishBrainシステム」を構築しました。そして、この「DishBrainシステム」にPONGの1人用モードをプレイさせたところ、わずか5分で遊び方を学んだとのこと。研究チームによると、現行のAIが同じことを学ぼうとすると90分はかかるという。

さらに他の実験では、実験室で培養した人間の「ミニ脳」に目が生え、光に反応したという。この論文は2021年8月17日に発表されている。
脳オルガノイドは極めて単純な構造をしているため「意識が芽生えることはない」とされている一方、人間の脳細胞からできた生きた組織であることから、脳神経が発達するメカニズムの解明や脳の疾病のモデル化、薬物の試験などに役立てられているという。
しかし小さくとも卓球ゲームを行える脳には意識はないのだろうか?



スタンフォード大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームが、IPS細胞から試験管培養した脳細胞が、実際の胎児と同様の速度で成長することを発見していることを確認しており、早産児)とほぼ同じ成熟状態にあることを確認したという。
これは驚異的な実験であり、もしかしたらこの小さな脳には意識が宿っている可能性があると私は思う。人はどこまで神の領域に踏み込んでよいのか考えてしまう。皆さんはどう思いますか?

参考
IPS細胞から培養の脳オルガノイド、乳児の脳と同じように発達することを確認
https://japanese.engadget.com/lab-grown-brain-organoids-mature-like-infant-brains-035506043.html
実験室で培養された「豆サイズの脳」から脳波を検出
https://engineer.fabcross.jp/archeive/190925_lab-grown-mini-brains.html
実験室で培養した人間の「ミニ脳」に目が生えてきたとの報告、光にも反応
https://gigazine.net/news/20210918-mini-brains-rudimentary-eyes/
実験室内で培養した人の「ミニ脳」にゲームをプレイさせることに成功、AIよりも速いわずか5分で習得
https://gigazine.net/news/20211221-human-brain-play-pong-ai/
ヒトiPS細胞から生成のミニ腸を試験販売。再生医療や創薬・動物実験代替
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1375640.html
若者に突然死起こす心臓病、iPS細胞で再現…治療薬の開発に期待
https://news.yahoo.co.jp/articles/553208d0c70d9f76e46bd09ae5c27f8451f179a4
iPS細胞、8社が製品開発 目の病気、心不全など治療
https://www.asahi.com/articles/ASL5J31Q0L5JUBQU001.html
IPS細胞から培養の脳オルガノイド、乳児の脳と同じように発達することを確認
https://japanese.engadget.com/lab-grown-brain-organoids-mature-like-infant-brains-035506043.html
wiki 悪性腫瘍
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA%E6%80%A7%E8%85%AB%E7%98%8D
wiki 1型糖尿病
https://ja.wikipedia.org/wiki/1%E5%9E%8B%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85

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